県庁駆ける田中旋風 派手な出迎え固辞・公開会議…



職員に気軽に声をかけながら庁内回りをする
田中知事=午後3時50分、建築管理課

 県民の「変革」の期待を背負い、「現場主義」を掲げた田中康夫新知事(44)が二十六日、県職出身者が約四十年間にわたって知事の座にいた県庁に第一歩を踏み入れた。仰々しさがつきものの登庁行事を簡素化し、異例の公開とした初の部局長会議で早くも火花を散らせたかと思えば、昼食は県庁十階の食堂で和やかに済ませ、夕方には急きょ一線職員との対話も試みるなど、“田中流”は随所に。「双方向の建設的な意見を交わし合える県にしたい」。そう約束して、田中新県政は船出した。

<スタイル あいさつ演台 盆栽なし>

 「にぎやかにしないで。花束もいらない」。初登庁に際し、田中知事は派手な出迎えを固辞。職員に参加を呼びかける庁内アナウンスもなかった。就任あいさつした講堂の演台横には、行事恒例の松の盆栽もなし。仰々しさを排した。

 異例の公開形式で臨んだ午前中の部局長会議、記者会見で予定時間は押し気味で、昼食時間は十五分ほどに。急ぎ足で本庁舎十階の食堂へ。サケのフライなどのランチ(四百三十円)、マツタケづくしの「本日のスペシャル」(六百円)を注文し、この日付で任命した特別秘書と二人でパクリ。「いつも早いんだよ」と五分ほどでたいらげると、ノート型パソコンで、京大助教授の浅田彰氏との対談の原稿ゲラを校正し、電子メールで送信した。食堂で働いて九年になるという女性は「知事が食堂に食べに来たことなんてなかった。一般の人と一緒でいいですね」。

 午前中の記者会見に集まったマスコミ関係者は約百人。知事が移動するたび、狭い庁舎の廊下を行ったり来たりした。

<緊張感 知事の名刺で押し問答>

 田中知事と幹部間で火花が散った午前中の部局長会議。幹部に求めることとして、「矜持(きょうじ)と諦観(ていかん)を併せ持つ弁証法ができているかだ」などと難解な語いを連ねる田中知事の答え方に、中村武文・農政部長は会議後、「抽象的な話では、仕事がやりにくい。知事の決断を仰ぐ時、文学的表現では仕事にならない」。

 午後。企業局をあいさつに訪れた田中知事から名刺を差し出された藤井世高・企業局長は「社長が部下に名刺を渡すのは、倒産する会社」と拒否。知事が「メールアドレスもある」と手渡すと、今度は「これはないことにさせていただきます」と、目の前で、「知事」の部分が裏になるように名前との間を折った。

 藤井局長は「任命権者が部下にいちいち名刺を配る行為自身がおかしい。これはパフォーマンスだ」と怒りもあらわ。「『目線を合わせて一緒にやりましょう』で、知事の使命を果たせるのか」と言い切った。

 ただ、この対応には気まずさと緊張感が広がった。四十代の職員は「庁内の人同士で名刺交換はしないが、その人の前で名刺を丸めることも絶対にしない。どういうつもりなのか」。

 名刺を折るシーンがテレビで放映された夕方以降、県庁には抗議電話が殺到。五回線ある交換台の電話は鳴りっぱなし。「けしからん」「県民をばかにしている」。残業の同局職員だけでなく、警備職員二人も深夜まで対応に追われた。

<和解? 握手「厳しく叱咤激励を」>

 午前十時十分、田中知事は事務引き継ぎのため、前知事の吉村午良さん(74)と初対面し、「田中でございます。よろしくお願いします」とぺこり。「厳しく叱咤(しった)激励してください」と言うと、吉村さんも「参考になれば。(いつでも)お待ちしております」。

 署名を終えた二人に、カメラマンから「握手」の注文が飛ぶと、吉村さんは「今、手を握ろうと思ったんだよ」。二人は両手で握手し、撮影に応じた。引き継ぎ後、「柔らかい雰囲気を持った方。新しい考えで県職員をリードしてほしい」と吉村さん。

 前副知事池田典隆さんを支持する県議が圧倒的に多かった県議会。だが、田中知事が午後、議長室を訪れると、吉田博美議長(県政会)は「議会の方はご心配なく。議会人として一緒に県政を良くしていきたい」。田中知事も「創造的な、建設的な、緊張関係で」と応じた。

 話はグルメ、健康維持の秘けつにまで及び、山口県生まれの吉田議長は、特産のフグについて「いい店に連れて行きますよ」。田中知事が「こんな会話をしていていいんでしょうか」と苦笑する場面もあった。

<同じ目線 「話は3分」職員から注文>

 田中知事の提案で急きょ、午後六時から講堂で開いた県職員との初めての交流会。男性職員を中心に約三百人が新知事を囲むようにいすに座ったが、最初の四十分間は阪神大震災のボランティア体験など、知事が一方的に話すばかり。

 会場にいた支持者が「質問形式にしてください」と書いた紙を持って歩み寄ると、「しゃべりすぎました」と知事。最初に質問に立った五十代の男性職員が「率直な意見を知事がどう理解してくれるか、今まで話し合う機会がなかった」と評価した後、「話は三分ぐらいにして」と注文を付けると、どっと沸いた。

 「(田中知事が設置方針を示した)予算執行チェック機関の説明を」「過疎地域で学校教育現場をどうするのか」…。十ほど質問が続き、田中知事は「すべてを知っているわけではないので、まず現場を見てから判断したい」などと答えた。

 「知事がずっと職員と対等に話そうとする姿勢でいてもらえたら」と四十代の男性職員。田中知事は「職員は私にどう接していいのか分からないようだった。私もそう。今後も毎週木曜日に開きたい」。

(2000年10月27日 信濃毎日新聞掲載)