介護のあした―連載を終えて 現実と向き合い…意識の真ん中へ


 「介護のあした」を探る道のりは、二つの事件の軌跡をたどることから始まった。

 周囲の手を拒み続けた末に母親の命を絶った七十歳間近の元銀行員、痴ほうの妻と無理心中した八十歳近い農村の男性。いずれも、戦前、戦後を純粋に生き抜いたがゆえに、旧来の価値観に縛られていたことが悲劇を招いた。

 その連載中にある読者からファクスが届いた。痴ほうが始まった入院中の母、一人暮らしの父。これから始まる「介護戦争」にブラックホールに吸い込まれるような不安を感じているという女性からだった。「暗い暗いこの連載をもうやめて、と思いながら読み続けた」とも書いてあった。

 半年後、電話の向こうの女性の声は明るかった。「父が記事を読んで、福祉サービスを受け入れてくれるようになりました。家族がいくら説得してもだめだったのに…。入院していた母も退院できて、今は幸せです。この時間が少しでも長く続いてほしい」

 介護を社会全体で支え合おうと、介護保険制度が来年四月にスタートする。だが、制度だけ整えても、社会や個人の意識や価値観(介護観)が変わらない限り、「介護のあした」は切り開けない。

 時代は今、経済優先の競争社会に一段と傾斜していくのか、人間優先の共生社会に向かうのか、大きな分岐点にある。経済優先の論理は、介護をますます片隅に追いやることになりかねない。アメリカでは高齢者への差別(エイジズム)が深刻化している。

 目の前に広がる超高齢社会は、介護が必要な老いへの覚悟をだれもが迫られる。一人ひとりが意識や暮らしの片隅に追いやっていた「老い」を真ん中に引き戻し、自分の問題として考え、かかわる。手間がかかるけれど、ゆっくり向き合ってみる。そんな足元から「介護のあした」への一歩を踏み出したい。

 (この連載は小市昭夫、太田康夫、畑谷史代、向井紀文記者、写真は毛利英俊、宮坂雅紀記者が担当しました)

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(1999年6月30日 信濃毎日新聞掲載)