「田中新県政」

焦点=県内「在日」危機感 知事の北朝鮮発言問題


6月28日(木) 掲載 


 田中康夫知事が、自らの政治手法や民主主義論に関連し、「県民が決めることが衆愚政治だという人は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)にでも行けばいい」と発言した問題が波紋を広げている。二十七日始まった六月県会一般質問でも、県政会の二氏が取り上げ、見解をただした。知事は「言葉が足りなかった」との認識を示したものの、撤回や謝罪は「行う意思はない」とあらためて表明した。県内に暮らす在日韓国・朝鮮人の中には、発言の真意を測りかね、その影響を危ぶむ人も少なくない。県には六百件を超える抗議などが寄せられており、問題が収束する気配はまだ見えない。

 「日本と朝鮮半島の間には悲しい過去があったが、それを乗り越えて日本人と共存したいと考えている韓国・朝鮮人の努力、彼女、彼らを妻、夫としている日本人たちの境遇を理解した上での発言だとは思えない」

 松本市の在日朝鮮人三世で三十代の会社員女性Aさんは十六日、知事に電子メールを打った。

 発言を知った時、日本人男性と近く結婚する在日朝鮮人の友人の顔が思い浮かんだ。国籍や文化の違いを超えようと努力している時、夫となる人はこの発言をどう受け止めるだろうか…。

 「知事発言で、北朝鮮の型にはまったイメージが植え付けられる」とAさん。「北朝鮮」へのイメージが、在日の暮らしを脅かすことを幾度も体験してきた。

 七年前、北朝鮮の核開発疑惑問題で、朝鮮学校の女子生徒の制服で民族衣装のチマチョゴリが切られた。当時、Aさんの母校の長野朝鮮初中級学校(松本市)でも、登下校時にチマチョゴリの着用を控えた。後輩たちは「登下校が怖い」とおびえていた。

 一年前、韓国と北朝鮮の南北首脳会談が実現するなど、今は当時と雰囲気が違う。だが、Aさんはこう書いた。

 「知事の発言は日本社会からマイノリティー(少数派)を認めず、差別しようと考えている勢力の台頭、再来を促しかねない。知事という権限を行使したうえでの言葉遊びはやめてほしい」

 田中知事からの返事はない。

 県政策秘書室によると、知事発言に対し二十七日夕までに電話や郵便、電子メールで六百四件の意見が寄せられた。多くが知事の真意をただしたり抗議する内容だったが、「発言内容は正しい」と支持する意見も約三十件あったという。

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 「知事の発言で、これまで自分のアイデンティティー(存在証明)を隠してきた人たちは、もっと隠すようになるでしょう」。松本市の在日朝鮮人二世の女性(46)はそう懸念する。

 「日本名」で中学校を卒業した。一世の父親に「本名」を名乗るよう勧められ、朝鮮高校に進んだ。朝鮮語や歴史を学び、民族の誇りを考え、朝鮮人の自分を受け入れることができた。「今は経済的に苦しい状況かもしれない。けれど、北朝鮮は私の祖国。その気持ちを知事は分かって発言しているのでしょうか」

 「朝鮮人」への差別感情は今も根強く、本名を隠して日本名で暮らしている友人もいる。女性は今も、周囲から「朝鮮人だとは隠した方がいい」「帰化した方が得だ」と忠告される。

 「自分は何者なのか」。アイデンティティーに揺れた子どものころ。知事発言の与える影響を考えると胸が苦しくなる。

(畑谷史代記者)




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