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あすへのとびら 「ふるさと納税」競争 狭い舞台で踊らされる

 ブランド牛に高級フルーツ、うなぎ、地酒各種…。きれいな写真なともに自治体のPRが並ぶ。

 「ふるさと納税」の民間情報サイトを開くと、カタログショッピングのような世界が広がっている。いや、実際、ショッピングなのだ。税金で用意された品物の―。

 「ふるさと納税」の名称は実態と合っていない。9年前、総務相だった菅義偉官房長官が、住民税の一部を故郷に納める制度を提唱した時の呼び名が残ったからだ。

 その後、有識者の研究会で「ふるさと」の定義の問題や、自分が住む自治体以外の「納税」は受益者負担の原則に反することが指摘された。結局、「応援したい自治体」に「寄付」すると、2千円を除いた全額が住民税と所得税から控除(減額)される制度として翌年、スタートした。

 自治体側は寄付へのお礼に地元産品を贈るようになった。「特典付きどこでも自治体寄付」と呼ぶ方が正確だろう。

   <お返し目的の“寄付”>

 返礼品が自己負担の2千円より高い物なら得したことになる。「応援したい自治体」というより、高額の返礼品を用意した自治体に寄付が集まるようになった。自治体側も他に負けじと返礼品の豪華さを競う。

 寄付額によって返礼品のランクがある場合が多い。多額の寄付ができる富裕層ほど得をする。

 総務省のまとめによると、昨年度の自治体への寄付は1652億円余に上り、過去最高になった。9割を超す自治体が返礼品を贈っており、6割近くが「返礼品の充実」を寄付増の理由に挙げる。

 全国で最も多い42億円余の寄付を集めた宮崎県都城市の返礼品を情報サイトで見ると、霜降りの宮崎牛の各種セットが並び、「品切れ中」も目立つ。

 2番目に多い38億円余の静岡県焼津市は、海産物のセットのほかに「こちらに掲載されていないお礼品もあります」と意味深な表示が。市に問い合わせると、タブレット端末のiPad(アイパッド)や携帯ゲーム機のDS、デジタルカメラだった。地元の生産品ではない。

 総務省は4月、ふるさと納税の趣旨に反するとして、商品券や電気・電子機器など換金性、資産性の高いものを返礼品として贈らないよう通知した。焼津市は「10万円未満の品は資産性が高くない」(ふるさと納税課)と、9万円台のiPadなどを贈り続ける。

 贈る方はお返し目当て、自治体側もお返しのPRでは、寄付の文化をゆがめる。

 典型的なのが東日本大震災の被災地だ。

 被害が大きい岩手、宮城、福島の3県の42市町村への寄付は、震災発生の2011年度は返礼品がほとんどないのに計約36億円が集まり、寄付本来の姿があった。それが2年後、7億円余に減少。多くの市町村が返礼品を設けると、昨年度26億円余まで回復した。

 原発事故の影響で返礼品を用意できない町村は寄付が減り続ける。最も必要なところに寄付が集まりにくい矛盾が現れている。

 返礼品は地元の産業振興に役立つとの見方もある。だが、税金で特定の業者の品物を買い、特定の個人に利益を与えることが公平な税の使い方と言えるだろうか。

 8月から「企業版ふるさと納税」も始まった。企業が自治体に寄付すると寄付額の約6割が法人住民税などから引かれる。

 自治体が返礼品を贈ることや入札優遇、低利子融資などの見返りは禁止されている。個人版のような返礼品競争はないが、寄付を募る自治体と貴重な税収を持っていかれまいとする立地自治体の引っ張り合いになる可能性がある。

   <財源の移譲こそ>

 個人版も企業版も、政府は大都市と地方の税収格差の是正をうたう。その実態は限られたパイの奪い合いだ。

 寄付を受けた額が、地元住民が他の自治体に寄付したことによる住民税控除額と返礼品などの経費の合計を下回り、「赤字」の市町村が少なくない。長野県内では昨年度、11市町村あった。地方の自治体間で格差が広がる。

 忘れてならないのは、税収格差を調整するのは本来、国税を一定割合で自治体に配分する地方交付税の役割ということだ。格差が大きいのなら地方に渡す交付税を増やすのが筋ではないか。

 地方分権整備法により国と地方は対等な関係になったはずだ。だが、国と地方の歳出比率が4対6なのに税源配分は6対4。国がより多くの財源を握り、優位に立つ構造は変わっていない。

 自治体は小さな舞台でひしめいて踊らされているようだ。舞台を広げなければ、ぶつかり合ってはじき出される。

(9月4日)

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