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生前退位 「国民の総意」置き去りか

 生前の退位を巡り天皇陛下のビデオメッセージが発表されて1カ月が過ぎた。

 政府は陛下一代に限り生前退位を認める特別措置法を制定する方向で検討を進めている。

 この問題を考える上で最も重視しなければならないのは、象徴天皇の地位は「主権の存する日本国民の総意に基づく」と、憲法が規定していることだ。

 だからこそ、陛下は国民に向けて現在の気持ちを表明し、「国民の理解」を求めたといえる。

 有識者や国民の意見を聞かないうちに政府が方向性を決めてしまうのでは「国民の総意」から遠ざかる。安倍晋三首相が悲願とする憲法改正の日程に影響しないようにという思惑が絡んでいるならばなおさらだ。

 恒久的に生前退位を認めるには、皇室関係の基本法、皇室典範の改正が必要になる。皇位継承の時期を「天皇が崩じ(死去し)たとき」と定めているからだ。

 改正となると、退位の要件など意見が割れる難題が待ち構える。皇族減少に対応するため女性皇族が結婚後も皇室にとどまる女性宮家の創設にも議論が広がる可能性もあり、相当な時間がかかると見込まれる。

 このため政府は当面、典範を改正しない方針だ。期間や目的を限る特別措置法で一代限りの生前退位を認め、典範の付則にその旨を書き込む案を検討している。

 政府は当初、9月中にも有識者会議を設置する方針を示していた。次第にトーンダウンし、首相は8日、訪問先のラオスで同行記者団に「さまざまな方のご意見を伺う」と述べるにとどめ、会議の設置に触れなかった。

 論争になる会議を避け、聞き取りで済ませる可能性がある。

 首相は自民党総裁任期の2018年9月までに憲法改正を成し遂げたいと明言している。生前退位問題を特措法で解決しようというのは、議論が長引いて改憲の足かせになるのを避ける狙いもあるとみられている。

 陛下はメッセージの最後に「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」と強調した。自分だけの生前退位を望んでいるのではないと解釈できる。

 メッセージをどう受け止めるのか。そこから議論を始める必要がある。政権の思惑を優先させ、合意形成の過程を省いてはならない。そのためにも国民の意見を聞く機会をどうやって設けるかをはっきり示すべきだ。

(9月10日)

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