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スラップ訴訟 批判が封じられる危うさ

 行政や大企業が、批判を封じたり、抗議運動を萎縮させたりする目的で起こす訴訟を、SLAPP(スラップ)という。「どう喝訴訟」とも訳される。

 言論・表現の自由を脅かすとして、米国では多くの州に規制法がある。日本でも近年、スラップと指摘される事例が目立つようになった。民主主義の根幹に関わる問題として目を向けたい。

 山口県での上関原発の建設計画をめぐり、反対派の住民4人に中国電力が計約3900万円の賠償を求めた訴訟で、和解が成立した。被告側が、スラップの典型と批判してきた裁判である。

 提訴は2009年。決着に6年8カ月を要した。中国電は予定地の埋め立て工事を反対派に妨害されたと主張したが、いつどこで妨害があったのか不明確で、審理は一向に進まなかったという。

 和解により、中国電は請求を放棄した。4人は工事再開時に立ち入りや妨害をしないとの条項を受け入れる一方、表現行動は制約を受けないと明記された。

 被告側は実質勝訴と受けとめる。とはいえ、高額な賠償請求を突きつけられ、長い裁判で大きな苦痛を強いられた。それが中国電の目的だと弁護団は言う。

 沖縄で米軍ヘリコプター離着陸帯の建設に抗議する住民を、沖縄防衛局が「通行妨害」だと訴えた訴訟もスラップとの批判が強い。住民の敗訴が確定したが、市民を排除するため国が民事訴訟を起こすこと自体、妥当ではない。是認した司法の責任も重い。

 長野県内でも、伊那市の建設会社が、太陽光発電施設の設置に反対した男性に6千万円の賠償を求めた裁判事例がある。地裁伊那支部が昨年、訴えを棄却する判決を出し、確定している。

 裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとして、提訴の違法性を認定。男性が反訴した慰謝料請求の一部、50万円の支払いを建設会社に命じた。

 スラップ訴訟は、訴えるだけで威圧の目的を果たしうる。横行すれば、自由な意見表明をためらわせ、“物言えぬ社会”を招きかねない。それだけに、不当な提訴による言論や市民活動への抑圧をどう防ぐかが重要になる。

 米国各州の規制法は、裁判所が提訴を不当と認めれば、審理をせずに訴えを棄却する、といった内容だ。日本でも、立法も含めた議論を本格化させたい。同時に、スラップ訴訟を起こす国や企業に対して社会が厳しい目を向けていくことが欠かせない。

(9月15日)

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