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あすへのとびら 殺人ロボット兵器 恐れが現実になる前に

 チェスや将棋で人間はもはや人工知能(AI)に太刀打ちできず、“最後のとりで”だった囲碁でも、世界最強の棋士の1人が打ち負かされた。車の自動運転や医師の診療支援にも活用が進む。

 AIの進化は目覚ましい。蒸気機関、電力、コンピューターに続く第4次産業革命をけん引する技術として、開発競争が世界規模で加速している。

 期待の半面、負の影響への懸念もある。暴走して人に危害を及ぼす危険性や、監視技術と組み合わされて人権侵害が深刻化する恐れも指摘されている。とりわけ注意を向けたいのは、軍事と結びつく危うさである。

 自律型致死兵器システム(LAWS)―。人間の介在なしに攻撃目標を自ら見つけて殺傷する“殺人ロボット兵器”のことだ。現時点では存在しないとされるが、現実になる日はそう遠くない。

 AIの能力向上によって、数年後には実戦配備される可能性があると国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は指摘する。米国、ロシア、中国、イスラエルなど少なくとも6カ国に開発能力があるという。

 殺人ロボットは、いくつもの重大な問題をはらんでいる。一つは、戦争犯罪の追及が困難になることだ。戦闘員ではない住民を殺害しても、ロボットを裁くわけにはいかない。誰の責任も問えない事態が起こりうる。

   <命の重さ知らぬ機械>

 戦場の暴力にも、超えてはならない限度がある―。その考えを出発点に、長い歴史を経て積み上げられてきた国際人道法が、規範としての意味を失いかねない。

 また、殺人ロボットを戦地に送れば、自国の兵士が戦闘で命を落とすことはない。それは確実に、軍事行動の大きな制約の一つを取り払う。攻撃にさらされる側の犠牲は顧みられないまま、戦火が際限なく広がる懸念が大きい。

 そもそも、人格を持たない機械に人の命を奪う判断を委ねてしまうこと自体、人間の尊厳を重んじる考え方と相いれない。根源にある倫理の問題にも目を凝らさなくてはならない。

 兵器の自動化はすでに進んでいる。米国は「対テロ戦争」で、遠隔操作の無人機による攻撃を繰り返してきた。多くの民間人が死傷している。命の重さを知らない殺人ロボットは、さらに深刻な事態を生むだろう。

 一定の自律機能を持つ殺人兵器は、現状でも技術的に実現可能とされる。LAWSに近いといわれるイスラエルの自爆型無人機は、遠隔操作なしに標的を見つけて突撃し、自爆するという。

 HRWなどは2013年に「殺人ロボット反対キャンペーン」を組織。日本を含む20カ国以上のNGO、市民団体が加わり、開発・生産・使用の全面禁止に向けた国際協議を働きかけてきた。

 各国の研究者らも声を上げている。自律型AI兵器の開発禁止を求める文書に、英国の物理学者ホーキング博士をはじめ2万人以上が署名した。核に次ぐ革命的な兵器が新たな軍拡競争を生み、世界に拡散する恐れを訴えている。

 特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の締約国による非公式の専門家会合が今年4月、規制策の検討を求める勧告を採択。非人道的な通常兵器を禁止、制限するCCWの枠組みで、来年から公式な政府専門家会議を開いて話し合う道筋がついた。

   <市民が政府を動かす>

 とはいえ、まだ緒に就いた段階だ。10カ国以上が全面禁止を支持するものの、殺人ロボットの定義をめぐっても意見の違いがあり、論議の進展は見通しにくい。

 「配備されてしまってからでは手遅れになりかねない。事前に止めるために、残された時間はあまりない」。HRW日本代表の土井香苗さんは言う。

 対人地雷やクラスター弾の禁止条約は、NGOがカナダやノルウェーの政府と連携して実現に結びつけた。軍縮を主導する役割を市民が担うようになっている。殺人ロボットの禁止も、人々が連帯して運動を広げ、国際的な世論を高められるかが鍵を握るだろう。

 日本政府は、全面禁止を支持する姿勢を示していない。開発する計画はないとする一方、民生用の技術開発を妨げないよう慎重に議論すべきとの立場だ。

 平和主義を掲げる国として本来の責任を果たしていない。軍事と民生の線引きの難しさが兵器開発の隠れみのにならないよう、ロボット技術の先進国としても議論を前進させる役割を担うべきだ。

 武器輸出禁止原則の撤廃、科学者を軍事研究に取り込む軍学共同の動き…。政府は軍事への傾斜を鮮明にしている。だからこそ、市民の側から動きを起こし、働きかけを強めたい。

(9月18日)

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