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世代つなぐ橋を架ける シルバー民主主義

 世界の最も先を行く日本の少子高齢化は、民主主義のありようも変えている。

 有権者人口に占める高齢者の割合は増え続ける。投票率も最近の国政選挙で70代が20代の2倍になるほど高い。投票する人の半数が60歳以上になりつつある。

 政治家は選挙に勝とうとするあまり、高齢者向けの施策を重視する。その結果、高齢者福祉に多くの予算が割かれ、子育てや教育の施策が後回しになる。

 「シルバー・デモクラシー(民主主義)」と呼ばれる現象だ。

   <財政支出の不均衡>

 実際に示すデータがある。国立社会保障・人口問題研究所が作成した政策分野別社会支出の国際比較(2011年度)だ。

 日本は「高齢」に関する支出の割合が46%。アメリカ(31%)、イギリス(28%)など他の先進国に比べても断トツに高い。一方で子育てなど「家族」に関する支出は5%と、イギリス(16%)の3分の1の低さだ。

 国と地方の借金は1千兆円を超える。年金や医療などの社会保障給付費が膨らんでいることが大きい。膨大な借金をなかなか減らせないのはシルバー・デモクラシーの弊害と指摘される。その負債を引き継ぐのは若い世代だ。

 若者がもっと投票に行って意思表示すべきだ。そう考える人も多いだろう。その通りだが、若い世代は高齢世代より数が少ない上、若者対象の施策を最優先する政治家もあまりいない。無力感が若者の投票率の低さを招いている面もあるのではないか。

 意識に訴えるだけでなく、制度として若い世代の声を反映させる仕組みが必要だ。学者らが幾つかの選挙制度改革案を考案した。

   <若者の声反映を>

 その中で最も現実的といわれるのが「世代別選挙区制度」だ。東大名誉教授の井堀利宏さんらが提唱する。

 例えば、20~30代を青年区、40~50代を中年区、60代以上を老年区と、有権者を世代別にグループ分けする。その比率に応じて各区の議員定数を配分する。

 現状では老年区の議員が多くなるが、青年区の有権者の投票率が低くても必ず人口比率に応じた議員数が選ばれる。その結果、若者の意見が政治に反映されやすくなり、世代間の利害調整が行われるようになる。

 次の世代のために、この制度を地元自治体の選挙に導入しようと孤軍奮闘する高齢者がいる。東京都狛江(こまえ)市の内山恵一さん、67歳。

 7年前に自動車機器メーカーを定年退職。20代のころにしていた地域活動に再び携わりたいと、市の政策などを検証する任意団体「狛江財政研究会」に入った。

 そこで市の予算を調べてみて気が付いた。若者、とりわけ独身で子どもがいない人が対象になる施策の費用がほとんど計上されていない。

 市議選立候補者の公約のキーワードを分析すると「特別養護老人ホーム」など高齢者施策が82件あった。これに対し、「若者の居場所」2件など子育て以外の若者施策は極端に少ない。過去10年に議員提案された意見書などの議案はこうした施策が全く見当たらなかった。

 シルバー・デモクラシーの現実を見た思いだった。自分にも20代と30代の独身の息子がいる。「時間軸の長い施策を展開しておかないと、彼らの世代に大きなツケを回すことになる」

 漠然としたイメージの世代別選挙区制度を試行錯誤し「狛江モデル」に練り上げた。憲法上の問題がないよう気を配ったつもりだ。

 最終案は、市議選の枠を18~39歳(A)と40歳以上(B)に分ける。AとBの有権者の人口比はおよそ3対7で、この比率に従って現在22人いる市議を配分すると定数はAが7人、Bが15人になる。

 それぞれの枠の立候補者は必ずしもその年代と合っていなくてもよい。Aに立候補した人は若者世代の利益を、Bに立候補した人は中高年の利益をそれぞれ代表し、施策を競い合う。

 有権者は2票を持つ。1票は自分の属する世代枠の候補者に投票し、もう1票は全候補者を対象に投票する―。

   <利害の調整が必要>

 「今の若者は、誰が自分たちの代表なのか分からない。この制度でそれがはっきりすれば、選挙への関心も高まると思う」と内山さんは期待する。

 今年に入ってインターネット上に賛同者を募るサイトを立ち上げた。目立たないせいか、署名したのは数人にとどまる。

 子どもや孫世代の利益を尊重する高齢者の良識で、現在の社会保障の危機的な状況についての理解を深めれば、世代間の利害の調整を踏まえた本来の民主主義を回復することは可能だ―。昭和女子大特命教授の八代尚宏さんは著書「シルバー民主主義」で訴える。

 今のままでは世代間の分断は大きくなるばかりだ。各世代に架ける橋の工事を急ぎたい。

(9月19日)

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