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秋彼岸の入りを告げるように庭の曼珠沙華(まんじゅしゃげ)が花をつけた。雨にぬれ、朱色が鮮やかだ。18日に101歳で亡くなった杉山千佐子さんが身に着けていた真っ赤な服とその色が重なる。「赤い服は闘争心を表すためでもあるんです」。かつて杉山さんは語っていた

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空襲で死傷した民間人への補償を国に求め、40年以上にわたって運動の先頭に立った。自身は29歳のとき名古屋で空襲に遭っている。爆風で顔に大けがを負い左目を失った。目立たぬように生きようと決め、懸命に働いたという。転機は50歳を過ぎていた

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何の援護もなく、同じように苦しんでいる人が各地にいる。元軍人・軍属に国は補償をしているのに、なぜ空襲被害者には何もないのか―。残った右目の視力を次第に失い、100歳になっても、車いすで国会や集会に出向き、不平等と不条理を訴え続けた

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亡くなっていく仲間の無念の思いに背を押されたのだろう。戦時災害援護法案は1980年代までに14回も議員立法で国会に提出されながら、いずれも廃案に。各地の空襲被害者が国に補償を求めた裁判も全て敗訴が確定している

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戦争で国民みんながひどい目に遭ったのだから我慢すべきだとする「受忍論」が立ちふさがった。補償の実現は見通せず、杉山さんは悔し涙が晴れぬまま旅立った。補償すべき人が時とともにいなくなるのを、国は黙って待つつもりなのか。

(9月20日)

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