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顕微鏡をのぞき込んでいた山極勝三郎がつぶやいた。「細胞の配列が乱れている。これはがんだ」。間もなく実験の成功が確信に変わり狂喜する。映画「うさぎ追いし―山極勝三郎物語」のクライマックスだ

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1915年、世界で初めて人工がん発生に成功した上田出身の山極の生涯を描いた。遠藤憲一さんが演じている。妻かね子は水野真紀さん。上田を中心に撮影を重ねて完成。不屈の研究者魂に夫婦の絆や郷土愛を絡ませ、心動かす骨太の作品に仕上がった

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がんの発生は外部からの反復性の刺激が原因ではないか。そう考えた山極は助手の市川厚一とともに、来る日も来る日もウサギの耳にコールタールを塗り続けた。先人が重ねた愚直で地道な研究が、1世紀を経て現在のがん治療の礎になっている。基礎研究の重みがずしりと伝わる

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今年のノーベル医学生理学賞に決まった東京工業大栄誉教授の大隅良典さんは約40年、顕微鏡をのぞき続け、細胞のオートファジー(自食作用)を解明した。安易に成果を求める昨今の風潮が基礎研究を衰退させていると懸念する

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「本当に役立つのは100年後かもしれない」と大隅さん。千曲川にちなみ曲川の俳号を持った山極は、顕微鏡を見続ける自分の姿をこう表している。〈老ゆるをも知らでながむる小世界〉

 ◇訂正 8日付で、困民軍を率いたのは「菊池貫平」でした。

(11月9日)

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