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トランプ氏勝利 危うさはらむ米民主主義

 米国はどこへ向かうのか。国際政治や経済にどんな影響を与えるのか。世界に衝撃が走った。混乱の拡大を懸念せざるを得ない。

 米大統領選は排外主義的な言動を繰り返す共和党のトランプ氏が勝利した。女性蔑視発言などの醜聞で厳しくたたかれても勢いを失わなかった。

 格差拡大を背景に、米国では中間層が弱体化した。党派や人種を巡る分断が深まっている。社会の変革を求める声は強いのに、既存の政治は対応できなかった。



   既存政治への不満

 政治経験のない実業家のトランプ氏が大接戦を制したのは、有権者の不信感がかつてなく高まったためとみていい。政界にしがらみがなく、雄弁に語る姿に現状打破の期待がかかったようだ。

 開票が始まる前はオバマ政権で国務長官を務めるなど、政治経験が豊富な民主党のクリントン氏が優勢とみられていた。結局、「既存の支配層」とのイメージを拭うことができなかった。公務で私用メールを使った問題も有権者の信用を落としている。

 トランプ氏は勝利宣言で「全ての国民の大統領になる」と強調した。が、選挙集会やクリントン氏との討論では具体的な政策をほとんど語っていない。掛け声は壮大でも、政権運営の方向性は不透明で予測すらできない。

 不法移民の流入を防ぐためにメキシコ国境に壁を建設するとの考えを崩さない。イスラム教徒にはテロリストが交じっている可能性があるとして、厳格な入国審査が必要だ、などと排外的な主張を最後まで続けていた。

 こんな姿勢で国のかじ取りができるのだろうか。格差の解消に取り組めるのだろうか。

 何より懸念されるのは、自由と平等を建国の理念とする米国の歴史ある民主主義がむしばまれていく恐れがあることだ。トランプ氏の言動をこれまで以上に厳しく見ていく必要がある。

 米大統領選は、社会のありようを映し出す。オバマ氏が初当選した8年前も象徴的だった。アフガニスタン、イラク戦争や金融危機への対応で社会は疲弊していた。オバマ氏が訴える「変革」は国民の気持ちをつかんだ。

 大統領就任後は移民の受け入れや銃規制など、リベラルな政策を次々と主張。イスラム社会との和解や「核兵器なき世界」構想も打ち出し、共感を集めた。

 その理想や政策は内外であつれきを生むことになる。変革の機運は実らず、対立を先鋭化させる結果を招くことになった。



   深刻な分断を映す

 本来なら今回の大統領選でオバマ政権の政策評価や、米国の針路が問われなくてはならなかったはずだ。それなのに、トランプ氏とクリントン氏は非難の応酬に明け暮れた。「史上最低の大統領選」との声が出たほどだ。

 トランプ氏は相次ぐ醜聞の発覚で共和党の有力者からも見放された。普通なら有権者からもそっぽを向かれそうな状況だったのに、そうはならなかった。

 ここに、米社会が抱え込んだ問題の根深さがある。オバマ政権下で景気は上向いたものの、社会の中核を担ってきた白人の労働者を中心とする中間層には恩恵は広く行き渡らなかった。ヒスパニック(中南米系)や黒人などの少数派が重みを増す一方、白人の疎外感が強まっている。

 白人の怒りがトランプ氏を大統領の座に押し上げたといってもいい。今回の選挙によって社会の分断がさらに進み、対立がより激化しないか心配だ。

 移民国家の米国は岐路に立たされている。人種や性別、宗教などさまざまな壁を乗り越え、多様性を認め合う国こそあるべき姿ではないのか。トランプ氏には米国が培ってきた民主主義とは何か、問い直してほしい。

 経済や外交、安全保障に対する考え方も心もとない。どこまで深く理解しているか疑問が募る。

 経済では極端な保護主義を訴える。自由貿易を拡大する環太平洋連携協定(TPP)からの脱退を宣言する見通しだ。米への輸出が多い日本や中国などを問題視し、輸入品への関税を引き上げる構えも見せる。貿易が低迷し、金融市場が混乱すれば、世界経済減速の要因を生むかもしれない。



   心もとない外交姿勢

 覇権主義を強める中国やロシアとどう向き合うか、イスラム諸国とどう付き合うか。これまでの発言の真意を分析したい。

 安保面では日本や韓国など同盟関係にある国に米軍駐留費の負担増を求めるとしている。安倍晋三政権は在日米軍を中国や北朝鮮に対する抑止力として重視する。対日姿勢がどう変化するか、目を離すことができない。

 トランプ氏は勝利演説で「全ての国と協調していく」と語った。選挙戦では「米国第一」と訴えていた。孤立主義に陥ることはないのか。国際情勢が混迷の度合いを深める中、米国の針路や役割を早急に示してもらいたい。

(11月10日)

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