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肉親との死別や家族の闘病などつらいことも多かったが、その都度著者の不屈の精神に励まされた―。「人生を支えた一冊」と題した本紙投稿欄で軽井沢町の主婦が藤原ていさんの小説「流れる星は生きている」を挙げている。同感という人は多いだろう

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旧満州で夫と別れ、諏訪の実家に帰るまで1年余り。5歳・2歳・生後1カ月の幼子を連れた壮絶な引き揚げ体験がもとになっている。帰路を阻まれた北朝鮮で雑用や物乞いをして冬を耐え、翌夏、決死の覚悟で38度線越えを敢行した

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後に藤原さんは冬が来ると足の裏が痛むと書いている。幼子を抱え、はだしで川を渡り山を逃げ回った傷痕だ。残留孤児が帰国したときは「親を憎まないで」と訴えた。飢えと寒さの中で命の限界を感じ、現地の人に託そうと考えたこともあったという

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帰国してすぐ結核を発症。「流れる―」は共に頑張った子どもらに残そうと病床でつづったものだ。後に気象庁職員から作家になる夫の新田次郎が助言した。これがベストセラーとなり著述の道へと夫の背を押し、主婦の人生も変えた

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藤原さんは県内でもたびたび講演している。はりのある声ではっきりと語る姿に、極限状態を生き抜いた強い母を見た。苦しさ、切なさ、悲しみを語る姿に、むごい戦争を憎み、平和を希求する思いを感じた。諏訪から始まった夫婦の波瀾万丈(はらんばんじょう)が幕を閉じた。

(11月23日)

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