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あすへのとびら 廃炉への遠い道 国民が現実共有せねば

 水素爆発で砕け散ったがれきが建物上部に残されていた。

 東京電力福島第1原発1号機。原子炉建屋を覆っていたカバーが今月上旬に外されたばかりだ。建屋上部に積み重なる長さ数メートルのコンクリート片や鉄骨が爆発のすさまじさを物語る。

 上部の残骸撤去がほぼ終了し、遠目には作業が進んでいるように見える3号機建屋も、内部のがれきは放置された状態。1号機建屋北側の4階建て建物は、窓ガラスや壁が吹き飛んだままだ。

   <まだスタートライン>

 今月中旬、事故から5年8カ月たった福島第1原発を訪れた。

 廃炉作業が進んだのは、事故当時は定期点検中で、炉内に核燃料がなかった4号機だけ。稼働中だった1~3号機は見通しが立っていない。

 建屋内のプールに保管されている使用済み核燃料の取り出しも始まっていない。炉内から溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出し作業は、デブリが存在する場所を探っている段階だ。

 これまでは、1日150トン以上増える汚染水対策のほか、除染や大型休憩施設建設など、作業環境の整備に費やされてきた。

 放射線量は大幅に下がり、原子炉建屋から離れた場所では、防じんマスクとベストなどの軽装で作業できる。全面マスクが必要なのは原子炉建屋付近のみだ。

 廃炉作業を進める東電内の組織、福島第1廃炉推進カンパニーは「敷地内のリスクを管理できるようになった」と説明する。廃炉作業のスタートラインに立つのに、5年かかったことになる。

 廃炉はいま、大きな転機を迎えている。費用負担の問題だ。

 経済産業省は10月、廃炉に必要な費用が想定していた年間800億円から年間数千億円に拡大するとの試算を示した。東電が試算した総額2兆円から、「数兆円規模」で膨らむことになる。

 増大する理由は燃料デブリにある。炉内は放射線量が高く、人が近づけない。世界でも前例がない廃炉ロボットなどの技術を最初から開発しなければならない。

 廃炉費用だけではない。避難者への賠償費用も当初見込んだ4・9兆円から数兆円規模で増加する。2・5兆円を見込んでいた除染費用も大幅に増えそうだ。

 廃炉費用は東電が負担し、賠償費用は国が立て替えた上で東電と大手電力会社が支払うことになっていた。この枠組みに加え、消費者に新たに費用の負担を求める議論が経産省の有識者会合で進んでいる。電力自由化で新規参入した電力会社(新電力)にまで負担を求める方向にもなっている。

 問題なのは、膨張する事故処理費用の全容が明らかにされないまま、国民負担が際限なく広がる可能性があることだ。

 経産省は具体的な廃炉費用の試算を明らかにしていない。さらに有識者会合は非公開で、議事概要が示されるだけだ。秘密の非公式会合を重ねていたことも10月下旬に判明した。

 国民負担に直結する重要なテーマが密室で議論され、基本的な情報も開示されない。政策決定過程をチェックできない状況に、国民は納得できるのだろうか。

 東電の財務状況と廃炉の見通しを国民が共有するためにも、政府は全ての情報を公開しなければならない。

   <東電の負担限界まで>

 地元の状況も深刻だ。福島第1原発の周辺自治体では、放射線量が比較的低い避難指示解除準備区域と居住制限区域が、来年3月末までに解除される見通しだ。順調にいけば、来年春には避難区域は当初の約3分の1に縮小される。

 一方で放射線量が高い帰還困難区域では、除染作業がほとんど進んでいない。

 国道6号沿いの帰還困難区域では、自動車販売店のショールームの大型ガラスが粉々になったまま放置され、飲食店の駐車場は草で覆われていた。住宅敷地の入り口にはバリケードもある。時間は「あの日」で止まったまままだ。

 帰還困難区域が81%を占める浪江町は、約2万1千人の町民全員が避難の対象になり、現在も継続している。約3割の住民が県外に避難し、仮設の役場も町外を4回も移転した。

 放射線量が低い区域の避難指示が解除されても、人口は当面5千人にしかならない見通しだ。当初の4分の1以下だ。事故の影響は収束する気配もない。

 事故をどう終わらせるのか。前提は事故当事者の東電が最後まで責任を持ち、身を削ってでも廃炉と賠償費用を負担することだ。まずは東電が負担できる限界を詳細に示さなくてはならない。

 国民負担はそれを踏まえて議論すべきだ。現状を直視し、楽観論を廃して問題を詰めたい。

(11月27日)

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