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グランマ(おばあちゃん)号と名付けられたヨットに82人の男たちが乗り込んでメキシコから出航したのは1956年11月25日。定員をはるかに超えた船は重くて進まず、荷物を海に捨て、男たちはところ構わず吐いていたという

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向かった先はキューバ。フィデル・カストロ氏率いる革命戦士たちだった。それから60年後の同じ日、カストロ氏は90歳の生涯を閉じた。指導者の地位を退いてからも存在感を示し、革命に生きたその人生を象徴する巡り合わせである

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上陸した革命軍は政府軍に迎え撃たれ、生き残ったのは12人。それでもカストロ氏が勝利を疑わなかったのは、楽観的な性格の故だけではない。米国に植民地化され、傀儡(かいらい)政権下で貧困と圧政に苦しむ民衆の支持が2年余の戦いを経て革命につながった

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「確かなことは、キューバ人民は決して打ち負かされない、ということだ」。かつてカストロ氏は語っている(I・ラモネ著「フィデル・カストロ」)。その信念が、米国による厳しい経済封鎖に屈しないこの小国の歩みを支えてきた

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革命から半世紀余の苦闘は、むしろ底力を強めたのではないか。国交を回復した米国との関係がどうなるにせよ、キューバなりの道を探り続けるだろう。先月、18年ぶりに再訪して、そんな思いを抱いた。カストロ氏という支柱を失っても、この国の背骨は簡単には揺らぎそうにない。

(11月28日)

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