長野県のニュース

斜面

オーストリア北部のブラウナウは河畔の町。対岸はドイツである。ヒトラーは1889年、この地に生まれた。著書「わが闘争」は〈わたしの誕生の地となった運命を幸福な定めだと考えている〉と書き出す

   ◆

続いて説く。二つのドイツ人国家の合併はどんな手を使っても実現せねばならない。〈同一の血は共通の国家に属する〉。その使命を果たす象徴が国境のこの町だ―。やがてナチスドイツの独裁者になったヒトラーは1938年、オーストリアを併合する

   ◆

ブラウナウに残る生家は3階建てのアパート。政府が長い間借り上げていたが、用途が決まらず建物を解体する方針を固めた。「ネオナチの聖地化」を防ぐためという。歴史家の中には「建物を残してナチスの歴史と向き合う場に」との声も根強い。それを振り切っての強硬措置だ

   ◆

危機感が強いのだろう。中東などから移民や難民が押し寄せ、摩擦が広がっている。異民族の排斥を主張する極右グループも台頭。4日に行われる大統領選決戦投票は、移民規制を訴える右派の候補が移民に寛容なリベラル政党の候補を破る可能性がある

   ◆

ユダヤ人虐殺などナチス思想の柱になった「わが闘争」は事実上、出版が禁じられてきた。昨年末に著作権が切れ、ドイツの研究所が批判的な解説を付けて再出版した。意図に反して暗闇に眠る亡霊を呼び覚まさないか。胸騒ぎを覚える。

(12月2日)

最近の斜面