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スピーチの名人として知られた作家丸谷才一さんが心掛けたのは原稿の準備だった。書いて臨めば話が長引き迷惑をかけることもない。結婚披露宴での挨拶(あいさつ)、賞の贈呈式での祝辞…。丸谷さんの挨拶の有無で会合に出るかどうかを決める人さえいたという

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巧みにユーモアを交えつつ格調高く心のこもった一連の原稿はシリーズの本になっている。最初に書いたのは旧制新潟高校の後輩である作家野坂昭如さんの結婚式での媒酌人挨拶だ。妻に聞かせて推敲(すいこう)し時間を計り丸暗記と念を入れた

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丸谷さんの心得は洋の東西を問わず通じるようだ。「年明けから気が動転しているので書いたものを読ませてください」。先日、米国の映画賞授賞式で原稿を手に話し始めたハリウッドの大女優メリル・ストリープさんのスピーチも心に響くものだった

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ネット上の映像を見ると、名指しは避けながらもトランプ氏が身体障害のある記者の物まねをしたと憂え「権力者による軽蔑は社会に軽蔑を招き、暴力は暴力を招く」と語りかける。多様な出身者が集まってこその映画界だとも訴えた

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しゃくに障ったのか、すぐトランプ氏は反撃した。「ハリウッドで最も過大評価された女優の一人」と。ツイッターで攻撃的な発信を続ける人が間もなく最強国の権力者になる。敬意や寛容を軽んじた次期大統領の一方的なつぶやきは人々の心を荒涼とさせる。

(1月12日)

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