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残業規制案 原点置き去りの議論だ

 何のための改正案なのか。原点を置き去りにしてはならない。

 月100時間を上限とする政府の残業時間の規制案である。

 政府案は年間の上限を720時間(月平均60時間)と定めた上で、どんなに忙しくても月100時間、2カ月続くなら月平均80時間を上限とする。超えたら罰則を科す。

 残業時間はこれまで青天井だった。労使協定に繁忙期を想定した「特別条項」を付ければ6カ月間は制限はなく、長時間労働がはびこる一因になっていた。上限を設ける意義は大きい。

 問題は「月100時間」という上限ラインである。

 厚労省は過労死の認定要件の解説書で、脳・心疾患発症の1カ月前に残業が100時間、または2〜6カ月にわたり月平均80時間を超えていた場合は、業務と発症の関連性が強いと説明している。政府案は「過労死ライン」に近い。

 連合は「到底あり得ない」として残業時間を一段と厳しく抑えるよう要求。全国過労死を考える家族の会も「企業利益のためなら、命をなげうって働けということだ」と反発している。

 残業時間規制を巡る議論が本格化したのは、広告大手電通の女性新入社員の過労自殺がきっかけだった。労使協定を大幅に超える残業をさせ、勤務時間も過少申告させた疑いで、法人としての電通と当時の上司が書類送検された。

 悲劇を繰り返させないための規制案ではなかったのか。政府の案は認められない。

 それなのに、経団連の榊原定征会長は、連合の主張は「実態とかけ離れた規制」と批判。政府は経団連と連合の協議に今後の方向性を事実上、丸投げしている。

 政府の働き方改革実現会議で安倍晋三首相は「合意形成できなければ法案は出せない」と述べている。残業規制は連合が長年にわたって導入を求めていた。規制導入を「人質」にして、上限時間で連合に妥協を迫るようなやり方は慎まなければならない。

 榊原会長と連合の神津里季生会長は2月末にトップ会談を開き、規制案について議論したものの、結論は出なかった。

 連合内部には規制対象となる職種に例外を設けないことや、労働時間の管理徹底、罰則強化などを条件に、規制案を認める動きもある。原点を見失っていないか。

 過労死をなくすために何が求められているのか。政府と経団連、連合はもう一度考え、規制案を見直すべきである。

(3月2日)

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