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あすへのとびら NHK受信料見直し 公共性を損なわぬよう

 ネット時代のNHK受信料の在り方を探る議論が始まった。

 NHKが設置した専門家による検討委員会が先日、第1回の会合を開いている。7月をめどに答申する。

 国民の「知る権利」に奉仕するとともに、質のよい娯楽番組を提供する役目を持つ公共放送だ。国が管理する国営放送や、広告収入で支えられる民間放送とは違う。

 受信料の見直しが公共性を損なうようでは本末転倒になる。課された役目をゆるがせにしない仕組みを、視聴者、国民を交えて考えていきたい。

   <戦争の歴史を経て>

 きっかけは自民党の検討チームが2015年秋にまとめた提言だ。NHKと総務省に対し、番組の24時間ネット同時配信に向けての手順をまとめるとともに、受信料の支払い義務化や強制徴収、罰則の導入、マイナンバー活用など、支払い率を向上させる仕組みを検討するよう求めた。

 上田良一会長は1月の記者会見で「放送と通信の融合時代を見据えた新たな受信料制度のあり方」について研究する考えを表明、検討委を設置した。

 以上がこれまでの経緯である。

 受信料は1950(昭和25)年、今のNHKのスタートとともに始まった。放送を受信できる受信機を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない―。放送法に書いてある。

 戦前、戦中には、放送は社団法人NHKのラジオしかなかった。民間放送は始まっていない。放送を聞くにはNHKと聴取契約を結んだ上で、国からラジオの設置許可を受ける必要があった。

 聴取料は郵便局が集めた。許可なしの聴取には罰則があった。国家管理下のNHKであり、聴取制度だった。

 今の受信料には不払いに対する罰則は設けられていない。NHKは受信料の面でも国の直接の管理からは切り離されている。

 支払い率は推定76・6%。ここ数年少しずつ上がっている。

 NHK放送文化研究所の「放送研究と調査」(14年5月号)によると、国の関与が排除されたのには連合国軍総司令部(GHQ)の意向が働いていた。戦争に利用された放送業務を政府から切り離し、国民に「受信の自由」を保障しつつ経営を安定させるために受信料の仕組みを作った。

 受信料には戦争の教訓が刻み込まれている。見直す際には慎重さが欠かせない。

 ネット利用の広がりが受信料を揺さぶっている。テレビがなくてもパソコンやスマートフォンで見ることができる。「一家に一台のテレビ」を前提にした仕組みは時代に合わなくなりつつある。

 若者のテレビ離れも進んでいる。NHKより民放の方が親しまれている現実もある。

 「見ないのに受信料を取られるのはおかしい」「衛星放送の有料チャンネルと同様の仕組みにして、見る人だけが払うようにすればいい」…。ネットには不満の声があふれている。

 見る人だけが契約する仕組みにすると受信料収入は大きく減る可能性が高い。番組の質を維持するのは難しくなりそうだ。地震、台風など緊急時の情報提供にも支障が出かねない。賛成できない。

   <基本は維持しつつ>

 公権力をバックにした強制徴収も問題が大きい。国の関与が強まって“国営放送化”するのは目に見えている。視聴者が軽視され番組が退屈になる心配もある。

 ネットの時代といわれても、ネットを使えない人、使いたくない人は大勢いる。そうした人たちへの配慮も欠かせない。

 電気通信の世界で使われる言葉の一つに「ユニバーサルサービス」がある。基本的なサービスは過疎地や離島の住民も含め全ての国民に提供することを指す。

 ユニバーサルサービスの考え方は放送でも重要だ。放送法もNHKに対し「あまねく日本全国において受信できる」ようにすることを求めている。ネット事業を優先して過疎地や離島、情報弱者に対するサービスがおろそかになるようでは困る。受信料の仕組みはそう簡単には崩せない。

 NHKは昨年12月、総務省の会合に出席し、ネット同時配信について考えを述べている。

 (1)今の受信料制度は基本的に維持する(2)番組をネット視聴する手続きを取った人には負担を求める(3)パソコンやスマホを持つだけでは課金しない(4)既にテレビを持っている家庭には追加負担は求めない―がその内容だった。

 この案なら公共放送の性格が大きく変わることはなさそうだ。強制措置を導入する自民党検討チームの提言よりも、国民の支持を得られやすいだろう。見直し論議のベースにしたい。

(3月5日)

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