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「絆」は元々馬や犬をつなぎとめる綱のこと。夫婦などの断ち難いつながりを意味するようになった。東日本大震災発生の2011年、世相を表す漢字に選ばれている。声高な「絆」キャンペーンが響き渡った

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被災した宮城県東松島市の大学生片平侑佳(ゆか)さん(22)は翌年、思いを詩につづっている。高校3年の夏だった。〈潮の匂いは友の死を連れてきた(中略)もう一度だけ、君に会いたい。くだらない話をして、もう一度だけ笑いあって、サヨナラを、言いたい〉

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〈潮の匂いは一人の世界を連れてきた。(中略)自分のことしか見えない誰かは響きだけあたたかい言葉で僕たちの心を深く抉(えぐ)る。“絆”と言いながら、見えない恐怖を僕たちだけで処理するように、遠まわしに言う〉。日本は一つと強調される表向きの「絆」への違和感だろう

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安倍晋三首相は東京五輪招致で福島原発の汚染水について「状況はコントロールされている」とし、東京は安全と訴えた。福島を分断し過去に追いやるかの発言だった。震災がれきは各地で受け入れを拒まれていた。「絆」の裏に深い溝が横たわっていた

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片平さんの詩はネットにも転載、共感を集め波紋を静かに広げている。詩は〈潮の匂いは優しい世界だった。/潮の匂いは孤独の世界になった。/潮の匂いは―。〉で終わる。震災から間もなく6年。潮の匂いは何を連れてくるのだろう。

(3月9日)

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