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福島事故6年 教訓は生きているのか

 未曽有の被害をもたらした東京電力福島第1原発の事故から6年がたった。

 巨大地震と津波で全ての電源を失った原発の暴走―。事故処理も見通せず、汚染された土地の除染が終わる日も遠い。避難者はなお約8万人に上る。事故処理費の見通しは、それまでの2倍に当たる21兆円超に跳ね上がった。

 原発の「安全神話」と「低コスト神話」は事故で失われた。それなのに原子力規制委員会の新規制基準の下で、原発の再稼働が続いている。教訓は生きているのか。問い続ける必要がある。

<緒に就いたばかり>

 福島原発周辺では、除染などが進んだとして避難指示の解除が相次いでいる。今春には避難区域は当初の3分の1になる。

 区域内には除染で出た廃棄物入りの黒い袋が山積みされたままで、住民の帰宅する意欲をそいでいる。これまで解除された地域で帰宅した人の割合は13%余にすぎない。解除で「復興」を進めたい政府の思惑は空回りしている。放射線量が高い帰還困難区域の除染の見通しも立っていない。

 事故処理は厳しい状況が続く。溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しは緒に就いたばかりだ。

 自走式ロボットを2号機の原子炉格納容器に投入する本格調査は失敗した。毎時650シーベルトという空間放射線量が推定され、想定以上の過酷な状況が明らかになった。

 政府と東電は2021年中にデブリの取り出し作業を始める目標を掲げる。実現は極めて厳しいといえるだろう。処理費がさらに膨らむ可能性も否定できない。

 事故の責任も明確ではない。東電は08年、高さ10メートル以上の津波が来る試算を得ていたのに対策をしなかった。経営陣が事故を予見できたかどうか。司法で係争中だ。

<支援頼みの再稼働>

 被災者は自宅に戻れず、事故処理も進まない。責任の所在も分からない―。原発の存在意義を問い直した重大事故の現状である。

 事故を直視しないまま、進んでいるのが原発の再稼働だ。

 原子力規制委は2月下旬、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働に向け、事実上の合格を出した。6原発12基目となる。すでに3基の原発が稼働中だ。

 新基準に合格しても確実に安全といえないことは、規制委の田中俊一委員長が明言している。それなのに政府は合格すれば再稼働を進める方針を崩さない。安全に対する責任がどこにあるのか、不明確な状態が続いている。

 電力会社が再稼働を求めるのは、経営上の問題だ。新規制基準に合格するには追加投資が必要になる。想定できる運転期間に生み出される利益を計算し、プラスなら再稼働を求める。

 問題は、電力会社が政府の支援を見込んでいることだ。

 事故が起きた場合にかかる経費が典型だ。福島事故では、東電を破綻させないため、国が除染費用を肩代わりした。賠償費は電力大手会社に加え、電力自由化で新規参入した新電力にも求める。最終的に消費者が負担する。

 政府は既存原発の廃炉関連費用を送電線の利用料を通じ、国民負担にする支援策も導入した。原発コストを研究している立命館大の大島堅一教授は「経費を正確に計算すると、政府の政策支援がなければ、電力会社は経営上、再稼働できない」と指摘する。

 原発の安全性と経費を曖昧にして、原発を支援する国の姿勢。電力会社はそれに甘えている。

 原発は民主主義も崩す。多くの世論調査では、再稼働に反対が賛成を上回る。国民の意思は明らかだ。それなのに、原発再稼働に同意する権利は、原発が立地する自治体と、県や道にしかない。

 九州電力玄海原発3、4号機の再稼働に今月同意した佐賀県玄海町は、約77億円の17年度当初予算案の歳入のうち、原発関係の交付金や固定資産税などが64%を占める。約6千人の町民の多くが雇用や取引などで九電と関わる。再稼働を拒む選択肢は事実上、ないといっていい。

 コストを明確にせず、国民の意思も正確に反映しない。それ故に再稼働が続いている。福島事故の教訓は見当たらない。

<原発ゼロへ道筋を>

 東芝は米国での原発事業で多額の損失を出して債務超過に陥った。日立製作所も米国での原発燃料事業から撤退し、約700億円の損失を計上することになった。

 米エネルギー省によると、最新型原発の発電コストは、事故対策経費などの上昇で風力より60%、太陽光より10%高くなった。欧州では太陽光のコストはさらに低い。原発の経済的な合理性は世界的に失われつつある。

 福島事故の現実と世界の流れ、再稼働に否定的な民意を直視することが必要だ。エネルギー政策の根本を問い直し、原発依存を下げて再生可能エネルギーを増やす。原発は最終的にゼロにする。その道筋を明らかにすること。進むべき方向ははっきりしている。

(3月11日)

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