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「私たち被爆者は福島の人々と核被害の痛みを共有している」。原発事故から6年の日に思い出されるのは先月86歳で亡くなった作家林京子さんの言葉だ。14歳の夏、学徒動員された長崎の工場で被爆、爆心地を逃げ九死に一生を得た

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助かった級友も若くして白血病やがんで亡くなった。体験をつづった「祭りの場」で芥川賞。冷静に書けるまで30年要したという。国に軽んじられた内部被ばくの不安を抱えての日々。とりわけ出産や子育てでは、わが子に影響しないかと恐怖におびえた

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その後の作品も、いわれのない差別や家族の崩壊など自分や友達の現在進行形をありのままに記している。被爆体験を普遍化し社会に生かそうと考えたからだ。それだけに原発事故には、訴えが届かなかったと絶望し人生を否定されたような気持ちになった

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ただ福島の人々に被爆者を重ねると風評被害を招きかねないと、林さんは案じていた。実際、避難先では子どもがいじめに遭った。将来の差別を恐れる声も聞かれる。世間の無理解や偏見がもたらす苦しみを繰り返してはなるまい

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今月末、福島では避難指示解除の区域が広がる。けれど避難者の健康不安は強い。古里を愛していても子どものためには帰還できない。つらい選択を迫られる家族は多そうだ。やはり被爆者と同じ「核」の被害者である。気持ちに寄り添う寛容な社会でありたい。

(3月11日)

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