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あすへのとびら 禁止条約への道 核軍縮に新たなページを

 核廃絶の潮流を確かなものにするチャンスである。腰を据えて議論し、核軍縮の新たなページを開きたい。

 核兵器を非合法化する初の条約制定に向けた交渉が、ニューヨークの国連本部で今月27〜31日と6月15日〜7月7日に行われる。

 国際司法裁判所が核兵器の使用は国際人道法に「一般的に反する」との勧告的意見を出したのは1996年。それから21年たって、禁止に向けた取り組みがようやく本格的に始まる。

   <被爆者の強い願い>

 条約は核兵器を実際に使うだけでなく、開発、実験、保有も含め全面的に禁止する。法的強制力で「核なき世界」を目指そうという意欲的なものだ。

 今年の夏には条約の草案を完成させ、来年から具体的な作業に関する協議を始める―。推進派の国々はこんな青写真を描く。

 先月、国連本部で開かれた準備会合には80カ国以上が参加したとされる。3月下旬の交渉期間内に具体的な禁止事項など、条約の根幹部分について話し合うことで基本合意している。

 国連総会と同様、交渉は原則的に公開の場で行われる。結論は全会一致とはせず、多数決で決めることを盛り込んだ交渉規則も大筋で一致できた。

 合意通りに論議が進むかどうか見守りたい。世界各地の市民を触発し、条約制定を後押しする力になってほしい。

 「原爆が落とされて72年。被爆者は年々高齢化している。核の脅威が高まり続ける中、ようやくここまできた」

 茅野市の藤森俊希さん(72)は感慨深げに話した。

 広島市に生まれ、1歳のときに被爆した。2006年に東京から移住し、10年から長野県原爆被害者の会会長、その2年後からは日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)事務局次長も務める。重責を担ってからは国際会議に積極的に参加してきた。

 初めて行ったのは10年に開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議だ。オバマ前米大統領が「核なき世界」構想を表明した翌年だったこともあり、構想実現への決意を盛り込んだ最終文書を全会一致で採択した。

 この年、赤十字国際委員会が核兵器に関し重要な見解を出した。軍事や政治面だけでなく、人道法を考慮して論議すべきだと訴えたのだ。国連オブザーバーの資格を持ち、影響力がある同委員会が核兵器問題でここまで踏み込んだのは初めてだった。

 13〜14年には核の非人道性を論議する国際会議が3カ国で立て続けに開かれた。

 15年のNPT再検討会議は決裂したけれど、流れは止まらなかった。昨年、非人道性会議を主催したオーストリアやメキシコなどが禁止条約の交渉に向けた決議案を国連に提出。米国などの核保有国が強く反発する中、昨年暮れの国連総会では113カ国が賛成し、交渉開始が決まった。

 藤森さんはこれまで8回の国際会議に出席し、変化を肌で感じてきた。「赤十字国際委員会の見解がうねりをつくった。会議に出るたびに禁止条約を理解する国が増えていった」と話す。

 しかし、核抑止力を重視する国々は被爆者の願いに背を向け続けている。オバマ氏の政策を否定するトランプ米大統領は核戦力を拡大する意欲を表明した。

 ロシアや中国といった核保有国も同様だ。NPTの枠外でも核保有国が幾つか存在する。中でも北朝鮮は体制維持のためにやみくもに開発を進める。

 唯一の被爆国である日本政府の姿勢も問われる。米国の「核の傘」に依存していることから禁止条約には否定的だ。トランプ政権から圧力を受けていることも判明。準備会合を欠席し、交渉参加も明言しない。核廃絶の機運に水を差すことになりかねない。

 現実は藤森さんを暗い気持ちにさせることが多い。だが、希望を捨ててはいない。

 日本被団協などは昨年春から核廃絶を求める国際署名を始めている。20年までに世界で数億人分を集める予定だ。昨年秋にはそれまでに集めた約56万人分の署名を藤森さんが国連に届けた。長野県の各界で広く集めるための連絡会も先日立ち上がった。

   <市民の力をばねに>

 藤森さんは23日にニューヨークへ出発する。条約制定交渉に関連する会議で禁止条約の必要性を訴えるとともに、署名を世界に広げることへの協力を海外の参加者に求める考えだ。

 米ロなどの核大国が立ちはだかる。市民の核廃絶への思いや行動が各国政府を動かし、条約制定の推進力となるだろうか。今度の交渉はその試金石となる。

(3月19日)

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