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北アルプス西穂高岳の稜線は長野、岐阜の県境だ。先日、岐阜側のロープウェー終着駅から稜線に建つ西穂山荘(標高2367メートル)まで登った。前日まで降った雪が踏み込むたびキュッ、キュッと音を立てる

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1時間余で山荘に到着した。食堂で迎えてくれたのは「松本押絵雛(おしえびな)」だ。支配人の粟沢徹さんが初めて展示した。「県境に建つ山小屋。両県の文化を紹介していこうと思い立ちました」。押し絵びなはこの伝統工芸を継承する松本市の人形店の作品である

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顔や着物など部分ごとに異なる色柄の布で綿をくるみ、厚紙に張り合わせる。繊細な熟練の技だ。江戸時代に武家の妻女の内職として始まったと伝わる。やがて庶民にも広がり、どの家でも飾るようになった。昭和の初めに途絶えたが、人形店の先代店主夫妻が30年代に復活させた

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両県境に安房峠道路が開通して今年で20年。松本から2時間ほどになった高山市は4月3日まで街挙げて「飛騨高山雛まつり」を開いている。段飾りの中心の「古今雛(こきんびな)」は金糸を使った豪華な衣装が特徴。落ち着いた風情の松本の押し絵びなとは対照的だ

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西穂山荘が飾っている「江戸旅姿」は、古着を解きほぐし男の旅装束を作った。長い時を経た焦げ茶と灰色の布が独特の深みを醸し出す。松本、高山とも、ひな祭りは月遅れ。境を越えて交流を深めつつ、大切にしたい歴史と文化である。

(3月19日)

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