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長野師範学校を出たばかりの青年は山村の小学校に赴任した。1931(昭和6)年春のこと。授業の方法に悩みつつ、山道を歩いて家庭訪問を重ねた。中でも被差別部落に足しげく通った。理不尽さに憤る純粋な心持ちの教師だった

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千曲市出身の映画監督村山英治さん(1912〜2001年)の自伝「大草原の夢」をひもといた。この年の9月に満州事変が勃発し、学校や村に「愛国」を強要する空気が強まる。労働運動も広がり、非合法とされた組合「教労」の県支部が発足した

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村山さんは長野上水内の「責任者」となる。33年2月、治安維持法違反の疑いで教職員らの一斉摘発が始まる。「2・4事件」だ。村山さんも検挙された。公判で「転向」を迫られ活動から身を引くと表明した。判決は懲役2年執行猶予3年。1年3カ月ぶりに拘置所の門を出た

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教職員230人らを検挙した2・4事件は「教員赤化事件」として喧伝(けんでん)された。当局が摘発の網を拡大したのは教室を軍国主義に染め上げる狙いがあったのだろう。その揚げ句村山さんのように組織的な活動実態がほとんどないところにまで網をかけた

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教壇を去った村山さんは映画の道に入る。婦人問題や環境などを題材に優れた作品を残した。代表作「八十七歳の青春」の主人公市川房枝は色紙に「権利の上に眠るな」と書いた。あすは治安維持法公布から92年。折しも内心の自由を脅かす「共謀罪」を政府与党は押し通そうとしている。

(4月21日)

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