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この国で「現実的であれ」とは「既成事実に屈服せよ」に他ならない。それは「現実だから仕方がない」という諦めに容易に移り変わる―。政治学者丸山真男はこう説いた。敗戦から7年後、再軍備論議のさなかに発表した論文である

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軍部の独走や政治の誤りを「仕方ない」と甘受した戦前や戦時の歴史を踏まえている。そうした「現実観」は指導者に広く入り込み日本をのっぴきならない泥沼に追い込んだ。市民の自由な発想や行動を抑え込み、ファシズムへの抵抗力を崩したという

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これも既成事実化の始まりか。米艦防護、安保関連法による自衛隊の新任務だ。護衛艦が米海軍の補給艦と警戒を続けながら航行した。日米の軍事一体化が進んで米国の戦争に巻き込まれる危険が高まる。そんな懸念を押しのけるように「北朝鮮の脅威」の現実が強調されている

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政府は今回の活動について国民に説明していない。活動の公表は自衛隊や他国軍部隊に具体的な侵害が生じた場合などに限るという。これでは是非を検証しようがない。米軍支援の強化は、実績を挙げれば要求がさらに高まり任務が広がるスパイラルだ

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丸山は訴えた。政治権力は同じ方向の考えを「現実的」と評価し反対派に「観念論」とレッテルを貼る。民衆が権力を制御する力が弱まれば、権力が選ぶ道が唯一の現実になりかねない。観念論批判にたじろがず、既成事実にこれ以上屈服するのは拒もう、と。胸に刻んでおきたい言葉だ。

(5月3日)

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