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〈小倉生まれで玄海育ち/口も荒いが気も荒い…〉。山国で抱く玄界灘のイメージは「無法松の一生」の歌詞と重なる。元寇(げんこう)の大船団も沈めた荒々しい海だ。そこに浮かぶ「沖ノ島」は島そのものがご神体で一般の立ち入りはできない

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福岡県宗像市の沖合60キロ、対馬との中間にあり、周囲4キロほど。巨岩群を中心に古代祭祀(さいし)遺跡が残る。4〜9世紀、航海の無事を祈って渡来した金の指輪や鏡などの宝物が供えられた。出土した約8万点は国宝に指定され、「海の正倉院」とも呼ばれる

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古代から朝鮮半島と活発に交流した証しとされる。藤原新也さんの写真集から、照葉樹の原生林が茂り巨岩の間にひっそり社殿が建つ完全隔離の世界を知った。藤原さんが小学生のとき実家の旅館で宿泊客が高熱を出した。父は客が持っていた島の土器のたたりだと恐れたという

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人々の信仰と畏敬の念のたまものだろう。今年の世界文化遺産への登録が確実になっている。ただ九州本土にある関連の社殿や祭祀を担う豪族の古墳群は対象から外れた。上陸できない島だけでは観光の目玉にしにくい。地元では喜びと落胆が交錯する

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文化庁は正式決定まで復活を働き掛けるというが、島だけでも意義はあろう。半島との交流がもたらす恩恵は大きかった。数々の争いを乗り越えた長い交流史の原点でもある。韓国の新大統領が決まった。関係改善の手を抜いてはなるまい。命懸けで玄界灘を渡った人々の思いが糧になる。

(5月10日)

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