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「ゆりかご」10年 投げかけた課題なお重く

 人けのない扉を開けて、ベッドに赤ちゃんを置く。病院内のブザーが鳴り、看護師らが駆けつけて子どもを保護する―。「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)が熊本の慈恵病院に開設されて10年を迎えた。

 親が育てられない子どもを匿名で受け入れる国内初の試みとして始まった。昨年3月末までに125人が預けられている。身元が分かった父母らの住所は、北海道まで全国に及ぶ。

 産んだまま放置されたり、虐待されたりして乳幼児が死亡する事件は後を絶たない。「ゆりかご」は最後の安全網としての役割を担い、小さな命を救ってきた。その事実を重く受けとめたい。

 自宅や車中など、医療施設以外での出産が、預け入れ全体の少なくとも半数近くに上っている。誰の助けもなく産み、ヘその緒をはさみで切った母親もいた。

 妊娠したことを相手の男性にも家族にも言えずに孤立し、追いつめられる女性が少なくない。経済的な事情から、病院を受診できない人もいる。

 児童相談所や市町村の相談窓口はあっても、十分な受け皿になりきれていない。その状況は依然、大きくは変わっていない。

 「ゆりかご」は、養育放棄を助長するといった批判を開設当初から受けた。親の都合を優先した安易な預け入れも実際にあったようだ。それでも、やむにやまれぬ手だてとして赤ちゃんを受け入れてきた意味は否定できない。

 身元が不明の子どもは、成長しても実の親を知る手がかりがないといった課題も挙がっている。ただそれも、生きていてこそだ。保護されずに命を落としてしまえば、取り返しがつかない。

 子どもの命を守ることは本来、国や自治体の重大な責務である。「ゆりかご」が投げかけた問いに正面から向き合い、匿名で子どもを預けることが、困り果てた親の最後の手段になっている現状を変えていかなくてはならない。

 妊娠の段階から、悩みを話せるようにすることが何よりも大事だ。当事者に届く丁寧な働きかけが重要になる。

 妊娠検査を無料で受けられるようにすることも、一つの機会になるだろう。自分で育てるのが難しければ、養子縁組や里親による養育制度があることも伝え、本人の選択を支えたい。

 10代で望まない妊娠をしてしまう場合も目立つ。性の正確な知識を、普段から学校や家庭で子どもに教えることが欠かせない。

(5月10日)

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