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憲法の岐路 教育無償化論 真に受けるわけには

 憲法記念日に合わせた安倍晋三首相のビデオメッセージでは、高等教育の無償化が柱の一つになっていた。

 唐突な発言である。これまでの自民党の政策と一致しない。財源のめども立たない。首相の呼び掛けを真に受けるわけにはいかない。

 「世代を超えた貧困の連鎖を断ち切り…子どもたちがそれぞれの夢に向かって頑張ることができる、そうした日本でありたい」

 「高等教育についても全ての国民に真に開かれたものとしなければならない」

 ビデオでの発言は、言葉だけを取り出せばその通りだ。反対する人は少ないだろう。

 問題は首相がどこまで真剣に考えているかだ。

 文部科学省の試算では保育所、幼稚園から大学までの無償化に必要な財源は4兆1千億円。消費税2%分に近い。国公私立大の学生納付金を無償にするだけでも3兆1千億円が必要だ。文教予算を倍増しなければまかなえない。

 首相は1月の施政方針演説では改憲と絡めない形で無償化に触れていた。その後、党内や文科省に具体化に向けた作業を指示した形跡はない。

 そもそも自民党はこれまで無償化に否定的だった。党の改憲草案は無償の範囲を現憲法と同様、義務教育に限っている。旧民主党政権が進めた高校無償化を「ある種のばらまき」と批判したのは、野党時代の自民党である。

 首相の念頭には日本維新の会を改憲路線に引き込む狙いがあるのではないか。維新は改憲による無償化を看板政策の一つにしている。先日の参院予算委では無償化の憲法への明記を求めた維新の片山虎之助共同代表に、首相は「自民党内で議論する」と答弁。息の合ったところを見せていた。

 日本の教育予算は、国内総生産(GDP)比では先進国の中で最低レベルにとどまる。拡充は急務だ。意欲と能力のある子ども、若者が、お金の心配をしないで教育を受けられる環境を整えなければならない。

 そのためには授業料値下げ、給付型奨学金の拡充など地道な政策を重ねる必要がある。それは憲法を変えなくてもできる。

 民進や共産は国会の頭越しのメッセージに反発している。無償化を憲法と絡め野党分断を画策するようでは状況改善は望めない。国民の期待にむしろ背く。

(5月16日)

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