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憲法の岐路 首相の姿勢 立憲主義を壊すのか

 改憲に向け、安倍晋三首相が国民投票と国政選挙を同時実施する可能性に言及した。

 改憲を発議する権限は国会にある。首相には与えられていない。行政府の長である首相が投票のやり方にまで口を出すのは行き過ぎだ。首相に自重を求める。

 15日夜のBSテレビ番組での発言である。同時実施ではルールの違いから混乱しかねないとの指摘があることに触れた上で、「別途やるのが合理的かどうかということもある」と述べた。

 改憲の2020年施行を読売新聞インタビューで述べたのと同様、国会の頭越しの表明だ。

 首相が同時を言い出したのは、選挙を改憲の推進力に利用する狙いからではないか。

 選挙と一緒なら議員の後援会を活用できる。9条改定に慎重な公明党も表だってはブレーキをかけにくい。争点は憲法に絞られるので改憲について方針が異なる野党の分断もできる―。

 国民のことを考えた上での発言と見るのは難しい。

 同時実施を認めるかどうかは投票法を決めるときの論点の一つだった。衆院憲法調査会の報告書には分離実施を「考慮すべき事項」と書いてある。議論は煮詰まらないまま今に至っている。

 公明党の井上義久幹事長は先日の記者会見で「実務者間では切り離して行うべきだというコンセンサスがあった」と述べた。

 そんな中で首相が同時実施に触れるのは、これまでの議論を無視した暴論だ。

 憲法は私たちが進むべき道を長い時間軸で定める指針である。時々の政権の評価が問われる選挙とは本来なじまない。

 衆参の憲法審査会では論点整理が始まったばかりだ。改憲項目を絞り込むめどは立っていない。絞り込みから原案作成、審査と進むには時間がかかる。

 そもそも投票法には未消化の問題がある。例えば「関連する項目ごとに」行うことになっている改憲原案の発議について、何をもって「関連する」と見なすか結論が出ていない。

 首相は2年前、専門家から「憲法違反」と指摘された安保関連法を数の力で成立させた。首相による憲法秩序の掘り崩しだった。

 首相が引っ張る形での同時実施を許すようでは、近代憲法の根本原理である立憲主義が揺らぐ。認めるわけにいかない。

(5月17日)

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