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天皇退位法案 侃々諤々の議論こそ

 天皇陛下の退位を実現する特例法案がきのう、閣議決定され、国会に提出された。

 事前に与野党が意見調整する異例の方法で陛下一代限りの退位を認める国会見解をまとめ、これに沿って法案が作られた。成立は確実視されている。

 だからといって、国会審議を形ばかりのものにしてはならない。国民に開かれた場で一度も議論されていないからだ。

 見解や法案にはほとんど議論になっていない問題がある。

 一つは、国民の「共感」を法律に書き込むことの是非だ。制定の趣旨である法案1条は、陛下が公務継続に不安を感じられていることに対し、こう述べる。

 〈国民は、御高齢に至るまでこれらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感している〉

 確かに各種世論調査では陛下の退位を認める声が圧倒的ではある。だが、あたかも国民全体が同じ思いを抱いているように明記するのは、価値観の押しつけになりかねない。

 また、世論調査を基に国民の意向を推し量っているなら、一代限りではなく今後の天皇も退位可能にすべきだという意見が多数を占めることをどう考えるのか。

 新元号について、意見公募(パブリックコメント)の適用除外にした8条にも疑問がある。

 元号は政令で定める。政令案はあらかじめ公示して広く一般の意見を求める義務が行政手続法で規定されている。元号はこの例外とするものだ。

 政府は「元号で賛否が割れるのは好ましくない」とする。国民が意見を寄せることをタブー視した時代錯誤の考え方ではないか。

 多様な意見を出し、戦わせることに後ろ向きの姿勢は法案の審議についてもうかがえる。「侃々諤々(かんかんがくがく)の議論はせず、できるだけスムーズに」(下村博文・自民党幹事長代行)、「静謐(せいひつ)かつ迅速な議論を」(大島理森衆院議長)などの声がある。与党は審議時間を最小限とする方針さえ示している。

 皇族減少対策として女性宮家創設を付帯決議に盛り込むかどうかだけが焦点になっている。その前に法案本体に解消されない疑問が幾つもあることを見過ごしてはならない。

 「侃々諤々」は、なにものにも臆せず、はっきりと主張するという意味だ。そうした議論を国民の前で行うことこそ、民主主義下の象徴天皇制にふさわしい。

(5月20日)

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