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自身が生まれ育った国の言葉でなく、外国語で創作する作家が増えている。ドイツ語で小説を書く多和田葉子さん、日本語を自在に使う米国出身のリービ英雄さん、芥川賞を受賞した中国人の楊逸さん…。越境する文学の柔軟性には目を見張るものがある

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北京で生まれ、米国で英語による執筆活動をするイーユン・リーさんもそんな一人だ。世界的に高い評価を受けている。表現方法を母語以外に求める理由は個々の作家で異なるけれど、リーさんの場合は中国の政治、社会状況が深く関わっている

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「中国では、中国語で書きたいという欲求は一度も生まれなかった。精神的に制限を受けていると感じた」。昨年、本紙夕刊に掲載されたインタビューで語っている。作品には抑圧的な社会で、孤独や心の痛みを抱えながら暮らしている人々が登場する

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中国はきのう民主化を求める学生らを当局が武力制圧した天安門事件から28年を迎えた。死者は319人とされるが、正確な数は分からない。政府は弾圧を正当化し、報道を規制。学校で教えられることもない。人権や言論弾圧は強まるばかりだ

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事件で子どもを亡くした親の会が真相究明を求めている。今年も声明を出したが、政府は「現在起きている前向きの変化に注目してほしい」と素っ気ない。経済成長を強調したいようだが、過去に目を閉ざす姿勢のままでは失うものが増えるだけではないか。リーさんが母語を捨てた理由を考えてもらいたい。

(6月5日)

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