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小さな村の問題提起 自治に生気を取り戻す

 高知県土佐郡大川村に向かった。

 山肌が迫る曲がりくねった道の先に、離島を除くと「日本で一番小さな村」が見えた。

 人口400人余のこの村は、議会を維持できるかどうかの瀬戸際にある。議員のなり手がない場合に備え、有権者全員で議事を決する「村総会」を置く検討も始めている。

 何が何でも400人の人口を守る―。こんな目標を掲げる村で、自治のこれからを考えた。

 吉野川が村を横切っている。川といっても、早明浦(さめうら)ダム堤にせき止められたダム湖で、中心集落だった167世帯が湖底に沈んでいる。“四国最大の水がめ”ができたのは40年ほど前。住民の必死の反対も、四国総合開発の国策にはね返された。

 同じ時期に、村の北東にあった「白滝鉱山」が閉山する。江戸時代に開かれたという銅山の周りでは2千人が暮らしていた。

 和田知士(かずひと)村長は「ダムは過疎化の大きな要因だ」と話す。建設に伴い、生まれ育った人たちが補償金を手に村を去った。1960年に4千人を超えた人口は10年後に半減し、75年に千人を切った。

 過疎化に歯止めをかけようと村も知恵を絞ったが、国の勧めに従った林業は輸入材に押されて芽が出ない。よそに先駆けたペレットストーブの製造計画、小水力発電、地熱を利用したシイタケ栽培も成果を上げられなかった。

 和田村政はいま、雇用の場として「土佐はちきん地鶏」「大川黒牛」のブランド化に力を入れる。山村留学や移住促進と合わせ、効果が表れてきている。



   <注目浴びた村総会>

 それでも高齢化率は45%と高く、議会の6議員の平均年齢も70歳を超えた。3人は75歳以上だ。2年後の選挙で定数6に達しなかったら…。危機感が「議会を廃し村総会を置く」という注目を集める動きにつながった。

 和田村長は12日の議会で村総会の検討を正式表明し、朝倉慧(あきら)議長も5月、議会運営委員会に「村総会の条例の検討が必要か」を諮問した。ただ、村も議会もあくまで議会存続を前提とする。「検討」はいわば、村民と将来を考えるための問題提起だった。

 議員のなり手が出ない理由を聞くと、朝倉議長は「議員になれる環境にない」と答えた。

 村内の主な就労の場は役場や学校、社協、公社、森林組合、農協だ。現役世代は議員との兼職・兼業を禁じる法律に反するか、その恐れがある。議長は立候補の支障となる規定を洗い出し、国に改正を求めるつもりでいる。

 和田村長が気になることを言った。「議員のなり手が現れないのは、人任せにし過ぎる風潮が村にもあるのだろう」

 なり手不足は長野県でも深刻になっている。2011年から4年間の58町村議選のうち、無投票は24に上った。今年4月の東筑摩郡生坂村議選は初の定数割れに。15年の駒ケ根市議選も市制始まって以来の無投票となった。

 他県も同じで、各地の議会が定数削減や議員報酬の増額といった対策を練る。そうしたことだけで打開できるのか。

 平成の大合併は自治の枠組みを度外視して行政効率を優先した。現政権が唱える地方創生でも、地方都市の機能を集中させる「コンパクトシティー」という似た発想が繰り返されている。

 憲法に明記された「地方自治の本旨」から離れ、国による統制色が濃さを増す。産業構造が変わり、住民の地縁による共同体意識が薄れていることもあるだろう。二元代表制も直接民主制も形骸化しているように思われる。



   <住民の力を高めて>

 19世紀のフランスの政治家トクヴィルは、著書「アメリカの民主政治」に書いている。権力に侵されやすい共同体が強力な政府に対抗するには、共同体を営むもろもろの仕組みが住民の思想や習慣に根を張り、伸び広がっていなければならない、と。

 こうも言う。〈自由な民族力が内在しているのは、共同体においてである〉。共同体を支える仕組みが〈自由を人民の手のとどくところにおくのである〉。

 和田村長は「住民力をもっと高めること」を課題に挙げた。突然の村総会の投げかけに戸惑う住民はいるものの、「議員任せでなく村政に関心を持たなくては」との声が聞かれた。

 少子化を例に取っても、それぞれの自治の営みを積み重ねるほかに改善の道はない。地方自治法の施行から70年。自治制度の内容や運用のあり方を地方が率先して検証し直し、生きた制度にしていかなければならない。

(6月18日)

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