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松本市高宮の高山龍雄さんが家の前で花壇づくりをしていると、その人は自転車に乗ってやってきた。小松一三(いさ)夢(む)さんだ。1952(昭和27)年春のこと。小松さんは「きれいですねえ」と花壇を褒め「一緒にやりましょう」と誘った

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敗戦の45年に復員した高山さんはすさんだ故郷に胸を痛め、翌春から花壇づくりに取り組んでいた。小松さんも荒れた人心を花で和ませようと「街を花いっぱいにする会」を結成したばかり。2人は意気投合しその後、活動を広げるため種をまき続けた

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元教師の小松さんは戦前、思想弾圧事件で教壇を追われた。戦後は大病し生死の境目をさまよっている。その間の思索から生まれた運動だ。自転車で各地に出掛け荷台に積んだ苗を贈っては仲間を募った。運動が全国に広がると評論家の荒垣秀雄は「平凡にして非凡」とたたえた

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花いっぱい運動の全国大会が10年ぶりに発祥の地・松本で開かれた。駅前にはモニュメントが設置され、花時計公園ではフラワーコンテストの作品が並ぶ。市民が育てている花壇が街のあちこちにある。初夏のまぶしい日差しに色とりどりの花が映える

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「花綵(かさい)列島」とは円弧状に島が並ぶ列島をいう。花を編んで作った綱「花綵(はなづな)」に由来し、千島・日本・琉球列島の呼称でもある。松本の花いっぱい運動は風船に種を結び付け、大空に飛ばしてきた。小松さんや高山さんら種をまいた人々の思いが風に乗って列島の各地に花を咲かせている。

(6月18日)

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