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松枯れ対策 懸念を置き捨てにせず

 住民と折り合わないまま薬剤散布に踏み切ってはならない。

 松本市が松枯れ対策として計画する薬剤散布を巡り、健康や環境への影響を懸念する住民の会が、散布差し止めを求める仮処分を裁判所に申し立てた。

 松枯れはカミキリ虫に寄生する線虫が松の幹で増殖し、水の流れを止めることが原因とされる。県内各地で被害が出ており、特に松本、上田地域で激しい。

 松本市は2013年度から散布を続けている四賀地区に加え、本年度は里山辺と本郷も対象地区とした。地元を中心とする住民たちが中止を訴えている。

 問題の一つは市が散布に用いるネオニコチノイド系農薬だ。水によく溶けるため植物が吸収しやすく、土の中に残りやすい。生態系への影響は大きく、ミツバチの群れが消える「蜂群(ほうぐん)崩壊症候群」の主原因に挙げられている。

 鳥の生殖細胞に異常を来す、人間の脳や神経の発達に悪影響がある、との研究結果もある。欧州連合(EU)は使用を禁止した。住民側は、とりわけ子どもたちへの害を案じている。

 もう一つの問題は手続きにある。市は、地元町会長らによる協議会の承認や要望を受けて計画したとする。が、住民側は計画自体を知らなかったという。

 合意形成に不備があったのか。そうでなくても、不安を置き捨てにしていい理由にはならない。本郷の協議会は先日、本年度の散布は見送ると判断した。

 市の対応はふに落ちない。菅谷昭市長は住民側の面会要望に応じていない。記者会見では農薬を抗がん剤に例え「がん患者にとっては有効だけれども副作用がある」と述べた。被害を招く疑いがあれば万全な対策を取る予防原則がある。どう具体化するのだろう。

 農林部長は市議会で、住民の会が署名活動を行ったことで「不安を感じていなかった住民から不安の声が上がった」と言い放った。「国や県の基準に基づいて使用すれば安全」との市の言い分も責任転嫁に聞こえる。

 薬剤散布は全国で数十年続けられているものの、十分な効果は出ていない。松の樹幹に薬剤を直接注入する方法、樹種転換の一層の促進など、代わりの手段を検討してみてはどうだろう。

 昨年の市長選で菅谷市長は、健康寿命の延伸に向け環境施策も拡充する、と公約していた。ここは国内外の知見を集め、環境に配慮した「岳都」らしい松枯れ対策を住民とともに探ってほしい。

(6月19日)

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