長野県のニュース

斜面

原爆症に苦しむ母親を兄が背負って帰ってくる。「どうしたんじゃあんちゃん」「ワラをもつかむ気持ちでABCCへいったのに、何もしてくれんわい」「薬もくれんのか」「かあさんはまるハダカにされて白い布をかぶせられ、体のすみずみまでしらべられただけよ」

   ◆

中沢啓治さんの漫画「はだしのゲン」の一場面である。ABCC、原爆傷害調査委員会は米国が1947年に広島に設置し、被爆者のデータを米国に持ち帰った。治療はしなかった。75年、日米共同の放射線影響研究所(放影研)に衣替えしている

   ◆

丹羽太貫(おおつら)放影研理事長は先日の70周年記念式典でこんなあいさつをした。「調査すれども治療せず、との批判が設立当初あった」「大変重く受け止め心苦しく残念に思っている」。ABCC―放影研の歴史の中で初めての、被害者に対する謝罪だった

   ◆

もともと、兵士は核戦争をどこまで戦い抜けるか調べることを主な目的にスタートした機関である。市民の健康被害への対応は二の次で「モルモット扱い」といった反発が出るのも無理がない面があった。広島、長崎の原爆被害者が向ける目は、放影研に変わってからも複雑だった

   ◆

10年ほど前に訪ねたことがある。市街を見下ろす高台にかまぼこ形の建物が並ぶ。米軍兵舎を転用して建設したころの雰囲気が残る。今は被爆した人としない人、計12万人対象の寿命調査などを続けている。データが米国に送られているのは昔と変わらない。

(7月9日)

最近の斜面