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背広や和服を着て少しかしこまった顔が並んでいる。上山田温泉の旅館で1941(昭和16)年1月に開いた懇親会の記念写真である。信濃毎日新聞が学芸欄に設けていた「農村雑記」などの編集担当者と常連投稿者らが参加していた

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同じ年の12月9日早朝、特高警察は治安維持法違反の容疑で一斉摘発に乗り出した。日本が真珠湾を攻撃し太平洋戦争に突入した翌日だ。県内では13人を検挙し、少なくとも7人がこの写真に写っていた。特高警察は「信毎学芸グループ事件」と呼んだ

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農村青年は社会の矛盾をペンに託して訴えていた。農村雑記はその表現の場だった。特高は「左翼分子」が信毎学芸欄を利用して懇親会を活動の一環にしたとみなした。特高が1枚の写真から事件を捏造(ねつぞう)するのは、戦時下最大の言論弾圧事件として知られる「横浜事件」に通じる

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共謀罪が施行された。戦前とは時代が異なり基本的人権を保障する憲法がある。人権を侵す事件は公然とは起きにくいだろう。だが技術の進歩は「共謀の証明」をはるかに手軽にした。どこにいるか、どんな会話をしているか、携帯電話から把握できる

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「親愛なる利用者殿、貴殿は騒乱の参加者として登録されました」。ウクライナ政府が2014年、首都の某所に居合わせた携帯電話の所有者に送ったメッセージだ=ブルース・シュナイアー著「超監視社会」。1枚の写真より膨大な情報を思いのままに利用できる時代ゆえの怖さがある。

(7月11日)

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