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汚染水の処理 東電は情理を尽くせ

 東京電力の川村隆会長による発言の波紋が広がっている。

 福島第1原発に大量にたまっている放射性物質トリチウムを含む汚染水の処理方法について、報道各社の取材にこう答えた。「(海に放出する)判断はもうしている。はっきり」。

 海への放出に、福島県の漁業者らは強く反対している。政府の小委員会が、風評など社会的な影響を考慮して処理方法を絞り込んでいる最中の発言だ。

 吉野正芳復興相は記者会見で、放出に反対の意向を表明し、全国漁業協同組合連合会も抗議文を公表した。東電は「最終的な方針を述べたものではない」などと釈明に追われている。

 核燃料冷却のために注ぐ水と、山側から流れ込む地下水によって事故直後から汚染水は増加している。トリチウムの濃度は高く、水に混ざると除去設備でも取り除けない。第1原発の敷地には大きな貯水タンクが林立する。

 原子力規制委員会は廃炉作業に支障を来すとして、トリチウムの濃度を薄めて海に流すよう東電に求めている。小委員会からも判断を促す声が出ていた。こうした要請が、川村会長の念頭にあったのかもしれない。

 東電はこれまで、処理方法については政府の検討を待つとしてきた。この段階で「判断した」と言うのは筋が通らない。地元軽視と言われても仕方ない。

 原発事故で福島県民は故郷を追われ、家や職を失った。いまも避難生活を続ける人は大勢いる。政府が一方的に避難指示を解くことで避難者への支援は止まり、健康不安もぬぐえていない。

 農業生産額は激減し、耕作放棄地も広がっている。深刻な打撃を受けた漁業者は、試験操業の海域と捕獲魚種を徐々に広げ、再興に必死になっている。

 試練に耐える福島の県民に向き合うとき、東電や国に求められるのは情理を尽くすことだろう。

 東電は、汚染水の処理方法を最終的には自ら決めるとする。納得し難い。廃炉や除染、中間貯蔵施設でも費用負担を国民に押し付けている。福島の人たちの考えを抜きにして、結論を押し付けることは許されない。

 処理方法の案には▽深い地層に注入▽蒸発▽水素に変化させて大気放出▽固化・ゲル化して埋設―が挙がる。海洋放出は、多分に費用と期間の効率性から有力視されたにすぎない。生態系への影響をはじめ、それぞれのリスクと利点を丁寧に示す必要がある。

(7月17日)

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