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あすへのとびら 今年の夏山 安全への取り組みさらに

 夏山シーズンが幕を開けた。県内の山も大勢の登山者、ハイカーでにぎわっている。

 中部山岳の地形、地質の多様さ、生態系の豊かさは世界有数―。研究者は口をそろえる。岩と雪渓、ハイマツや花が織りなす景観は世界に誇ることができる私たちの財産だ。

 県は「世界水準の山岳高原観光地」づくりを掲げている。山の魅力も事故なく楽しめてこそである。安全、安心の登山に向け取り組みを強める夏にしたい。

   <義務化の効果は>

 昨年1年間の県内の山岳遭難は272件、43人が死亡した。件数、死者とも県別で最も多い。

 県内の昨年の交通事故死者121人と比べても深刻さが分かる。まずはこの状況を変えなければならない。

 県登山安全条例に基づく登山計画書(登山届)の提出義務化から1年が過ぎた。義務化後半年の集計では、県の受け付け分は義務化前に比べ36%増えたという。

 ただし、義務化の対象の山に登った人のうち何%が提出したかはまだ分からない。いま推計作業中だ。県は義務化前の提出率を40%とみて、60%に引き上げることを目標にしている。

 義務化のきっかけは3年前の御嶽山噴火だった。登山届を出さないで登った人も多く、行方不明者の把握に手間取った。

 登山届が大事だとされる理由は何だろう。

 救助活動は家族や職場、山岳会仲間などからの「帰ってこない」との一報から始まることが多い。登山届を出しただけでは遭難したことさえ分からない。警察は届けの内容をいちいちチェックしたりはしないからだ。登山届の意味は行方不明者の把握以上に、計画に無理がないか登山者自身がチェックすることにある。

 条例による義務化といった規制措置は、やらないで済めば越したことはない。義務化がどこまで効果を上げているか、2年目以降に向け慎重に見極めたい。

 登山の安全を支える一つに遭難救助がある。

 今年3月、救助の一翼を担っていた県の消防防災ヘリコプター「アルプス」が鉢伏山で墜落し、乗っていた9人全員が死亡した。国土交通省運輸安全委員会が原因調査を進めている。

 この夏、遭難に備える県内のヘリは県警の2機だけになる。

 ヘリ救助体制の立て直しを考える上で参考になる資料がある。2009年9月に穂高岳で起きた岐阜県防災ヘリ墜落事故についての安全委の報告書だ。

 以下の問題点を指摘している。

 ▽操縦士が高山での救助に慣れていなかった▽出動するかどうかの判断を運航管理者ではなく、事実上操縦士がしていた▽機長を補佐する副操縦士が乗っていなかった▽防災ヘリと県警ヘリの役割分担があいまいだった―。

 高度な技術を必要とする山岳救助を担う体制が十分整っていなかった、というのだ。長野県でも、防災ヘリが救助の役割を今後も果たすにはこれらの点をクリアしなければならない。

 中でも難題は操縦士の確保だ。ヘリの操縦士は全国的に不足している。2人以上の体制をつくり上げるには時間と費用がかかる。慎重な判断が欠かせない。

   <次の世代を育てる>

 信州の山を考えるとき外せないポイントの一つに学校登山がある。11人が死亡した松本深志高校の西穂落雷遭難(1967年)など、悲惨な事故を経て今につないできた伝統だ。

 3月に栃木県那須町で起きた高校生の雪崩遭難をきっかけに、学校登山の安全への関心が高まっている。スポーツ庁は冬山登山の原則禁止を再確認するよう求める緊急通知を出した。

 長野県教委は山岳関係者による検討委員会を設置、高校生が雪山に入る際の注意点について検討を始めた。9月に結論をまとめる。先日の初会合では、雪山に親しむ環境を維持するために、一律に禁止せず独自の指針を決めるべきだとする意見が多かったという。

 高校生は登山の世界の将来を担う人たちだ。危険があるからといって一律に禁止するのは考えものだ。冬を含め四季を通して山に親しんでこその山岳県の高校登山である。安全に登る知識と技術をしっかり伝えたい。

 そのためには指導する教師の力量アップが欠かせない。山岳部顧問の教師に対する研修の充実を県教委に望む。

 信州人は明治以降、北アルプスなどの高山に山小屋をつくり登山者を迎え入れてきた。小島烏水、槙有恒といったパイオニアと一緒に日本の登山スタイルを作り上げてきた。登山の安全についてもリード役を果たしたい。

(7月23日)

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