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「恐ろしいことだ」。火葬後にばらけた遺骨を骨壺(こつつぼ)に納める習わしを聞き、メキシコのインディオは身を震わせてつぶやいた。真木悠介こと社会学者の見田宗介さんの著書「旅のノートから」にある

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土葬するインディオにとり、人の骨格を残すことは「生き残った者が祖先と大地へとつながっていく、存在の根のようなものかもしれない」と真木さんはつづる。北海道のアイヌが、北大に先祖の遺骨の返還を求めて提訴したと聞き、この話を思い起こした

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アイヌにも土葬の伝統がある。死者の眠りを妨げぬよう墓参りはせず、コタン(集落)で「イチャルパ」という先祖供養を営んできた。北大や東大、京大などは人類学の研究のためとし、明治から戦後にかけて“盗掘”を続け、1600体もの遺骨と副葬品を持ち去っている

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大学側は遺骨をばらばらにしておきながら、身元が分からないことを理由に返さずにきた。動物の骨の標本とともに並べていた時期もあったという。札幌地裁で昨年、身元不明の遺骨もコタンに返す和解が成立したのを機に、ようやく帰郷がかないつつある

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アイヌの歌人バチェラー八重子さんは〈ふみにじられふみひしがれしウタリ(同胞)の名誰(たれ)しかこれを取り返(かへ)すべき〉と憂えた。シサム(大和民族)に明治以降、土地を、狩りや漁を、宗教を奪われてきたからだ。彼らの先住権を尊重し、本当の隣人になれたら、やせ細るシサムの存在の根にもきっと生気が戻ってくる。

(7月24日)

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