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芸人から夏山常駐パトロール隊へ 松本の藤田さん今夏から活躍

涸沢のテント場を歩く藤田さん。「まだ新人なのでギャグを飛ばす余裕はありません」涸沢のテント場を歩く藤田さん。「まだ新人なのでギャグを飛ばす余裕はありません」
 県山岳遭難防止対策協会の北アルプス南部地区夏山常駐パトロール隊でこの夏、元お笑い芸人という異色の経歴を持つ藤田剛央さん(33)=長野県松本市=が新人として活動している。日々、緊張感のある現場を歩きながら、今はお笑いでなく登山者の笑顔を守りたいと張り切っている。

 愛知県あま市出身。高校生の頃にお笑いブームがあり、勝ち上がり式で芸人が競う番組をよく見ていた。高校卒業後、6年ほど工場に勤めたが、「やりたいことをやろう」と吉本興業(大阪市)の門をたたき、居酒屋でアルバイトをしながら漫才コンビを組んだ。

 毎月のように挑戦したオーディションはネタが受けなければ途中で照明が消されるルール。観客が誰も笑わず「『早く照明を落としてくれ!』と願った」日もあった。同期の芸人が会場で受けるたびに落ち込んだ。

 2年ほどたった頃、バイト仲間に誘われた富士登山が転機に。気分転換にと登った山頂から、眼下に広がる雄大な雲海を眺めた。山小屋では初対面の登山者と飲み交わし、悩みや苦しさを吹き飛ばしてくれた。27歳で漫才コンビを解消し、翌2012年から北アの西穂山荘で働き始めた。

 登山道整備などの仕事はきつかったが、登山者から感謝され、やりがいを感じた。15年に長男が誕生。家族を優先させたいと山を下り、大阪府で登山用品の卸会社に勤めたが山への思いが募った。

 西穂山荘で働いていた時、稜線(りょうせん)から滑落した登山者の救助に同行した。別の登山者がロープで要救助者を引き上げ、夏山常駐パトロール隊員がすぐにツェルト(簡易テント)をかぶせて保温した。その隣で「何もできなかった」悔しさが心に残っていた。妻に相談し、思い切って家族で松本市に移住。パトロール隊に応募し、入隊が認められた。

 パトロール隊長の吉田英樹さん(62)は藤田さんを「山小屋時代に培った知識と体力がある」と評価する。現在の主な任務は槍・穂高連峰のパトロールと遭難者の救助。幸い、本格的な救助はまだないが、登山道でルートを尋ねられることも多く「間違ったことは言えない」と言葉や立場の重みを実感する。登山者が安心して心から山を楽しめる環境づくりに役立ちたいと、研さんを重ねている。

(8月10日)

長野県のニュース(8月10日)