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能楽の奥深さに迫る 大鹿の能面作家 全国コンテストで大賞

自宅の作業場で能面を手に取る井上さん。「能面の深みは桁外れ」と厳しい目を注ぐ自宅の作業場で能面を手に取る井上さん。「能面の深みは桁外れ」と厳しい目を注ぐ
 長野県下伊那郡大鹿村の能面作家、井上欣一さん(69)=大阪府八尾市出身=が手掛けた能面が、大阪府豊中市で開かれた全国能面フェスティバル「島熊山能面祭」のコンテストで大賞を受賞した。人間国宝の梅若玄祥さん、大槻文蔵さんら能楽師が審査するコンテストで、大賞は県内作家では初めて。井上さんは「平成の名作」を目指し、挑戦を続けたいと語った。

 井上さんは大阪のデザイン関連会社を2003年に早期退職し、木材工芸を学んで08年に大鹿村に移住した。能面や舞楽面を手掛け、下伊那郡高森町の瑠璃(るり)寺に、舞楽面の「陵王(りょうおう)」を奉納するなど活躍している。

 フェスは07年に始まり、11回目。全国から123点の能面と狂言面が寄せられた。舞台上で舞う能楽師たちが審査に当たるだけに、評価基準は「実際の舞台で使える面」という。井上さんは若い女性の面「小面(こおもて)」を出品、最高賞の大賞2点のうちの一つ、梅若玄祥賞を受賞した。能の演目「松風」の登場人物の「『村雨』の霊を表現するのにちょうどよいと思われる」などと評された。

 「舞う人は一番良い面を着けて舞台に立ちたいと願う。だから使われる面はどれも重要美術品のような貴重なものばかり」と井上さん。能楽師をうならせる作品を作り、「未来の人間国宝に使ってもらいたい」と志は高い。

 無表情に見える面でも、顔を上げると笑い、下げると悲しんだ表情に見えるような「生きた顔」が求められるという世界。1カ月以上かけて仕上げた面でも、どこかに違和感が残るようなら一から作り直すこともあるという。

 8月20日には豊中市で能面祭の交流会があり、能楽師が大賞に選ばれた井上さんの「小面(こおもて)」を着け、舞台での面の見栄えを確認した。うれしさの半面、舞台上の光の当たり方などでイメージした顔つきと実際の印象が大きく違い、能面の難しさを再認識した。「生きているうちに、600年以上の歴史がある能楽の奥深さにどれだけ迫れるか」。井上さんはさらなる高みを目指している。

(8月24日)

長野県のニュース(8月24日)