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ハンセン病法廷 人権救済の道閉ざすな

 ハンセン病差別に加担した責任に正面から向き合おうとしない司法、検察への異議申し立てである。1950年代に熊本で起きた菊池事件をめぐり、元患者らが国に賠償を求める裁判を起こした。検察が再審請求をしないために、差別被害を広く回復する機会が失われたと訴えている。

 隔離施設内に設けた「特別法廷」で菊池事件の裁判は行われた。裁判官、検察官、弁護人は白衣を着てゴム手袋をし、火箸で証拠物を扱ったという。殺人罪に問われた男性は一貫して無実を主張したが、国選弁護人は、検察が提出した証拠すべてに同意し、弁護らしい弁護をしていない。

 ハンセン病患者の強制隔離政策は戦後も長く続き、特別法廷は72年まで、95件開かれている。その中で唯一、死刑が言い渡された事件である。最高裁で刑が確定し、62年に執行された。

 裁判の公正さが問われるとともに、冤罪(えんざい)の可能性がかねて指摘されてきた。証拠や証言には不自然さが目立つ。凶器とされた短刀に血痕はなく、男性の上着にも被害者の血は付着していなかった。

 執行から半世紀を経た2012年、元患者らは検察に、再審を請求するよう要請している。遺族は根強い差別を恐れ、請求に踏み切れない。検察自ら再審請求をする義務があると訴えた。

 特別法廷をめぐっては、最高裁が昨年、設置手続きに違法な取り扱いがあったとして謝罪している。けれども、法の下の平等や裁判の公開を定める憲法に違反したと明確に認めてはいない。

 最高検も今年3月、法廷に関与した責任を認めて謝罪する一方、再審請求は「事由がない」として拒んだ。確定判決の是正を求める非常上告も見送っている。

 元患者らが納得できないのは当然だろう。ハンセン病を理由にした不当な差別が、法の下の平等に反することは明らかだ。施設に開廷の掲示をしていたから裁判の公開に反しないという最高裁の言い分が通るなら、絶海の孤島でも法廷は開ける。

 司法は、人権を守るとりでである。にもかかわらず、自ら人権を侵す側に立った責任の重大さを認識し直さなくてはならない。刑事司法に深く関わる検察にもその責務がある。

 米国では、70年前の死刑判決に重大な憲法違反があったとして、裁判所が職権で破棄した例もある。司法、検察が形だけの謝罪で過去を封印し、人権救済の道を閉ざすことがあってはならない。

(9月4日)

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