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長崎から核廃絶を訴え続けた土山秀夫さんと谷口稜曄(すみてる)さん、残念な相次ぐ訃報である。聞く人の感情に悲惨さを訴えるだけでなく冷徹な国際政治に訴える理論が必要だ―。土山さんが強調したのは草の根で政策提言していくことだった

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8月9日の原爆投下は「ハハキトク」の電報で長崎を離れた4時間後。翌日戻ると同居の兄一家は全滅していた。医学生として廃虚の中で何日間も被爆者の救護に携わり、自身も被爆。次々と亡くなる人々になすすべもなく、憤りと無力感が込み上げた

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長崎大学長を退任するやいなや運動に注力。アジアの学者に協力を求めると「気持ちは分かるが投下のきっかけを作ったのは誰か」と問い返され、誰もが受け入れる理論が必要と感じた。谷口さんは熱線で焼かれた「赤い背中の少年」の写真で知られる。郵便配達中の被爆だった

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平和運動にかかわったのは米国の水爆実験がきっかけだ。入退院を繰り返し声が出にくくなっても、「生かされた者の使命」との信念で、語り部の活動はやめなかった。土山さんの「理」と谷口さんの「情」。両輪そろった長崎からの発信は力強かった

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土山さんは「日本は北朝鮮を嗤(わら)えるのか」と題する11年前のエッセーで北朝鮮の核弾頭開発を心配した。孤立し暴走した思想統制の軍国日本との共通点を挙げ〈教訓を生かし米朝両国の説得に当たるべき使命がある〉と歩み寄りの仲介役を提言する。この処方箋はもう使えないのだろうか。

(9月5日)

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