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防災ヘリ事故 なぜ1人操縦士態勢で

 航空隊員らの安全対策の要望は、なぜ生かされなかったのか。

 県の消防防災ヘリコプターが訓練中に松本市の山中に墜落し、隊員ら9人が死亡した事故から半年が過ぎた。

 本紙が入手した内部文書や関係者の証言で、隊員たちが事故の約1年前から「ダブルパイロット制」を求める要望書を県危機管理部に提出していたことが分かった。事故との関連が考えられる。

 機長席と副操縦席の両方に操縦士が乗るのがダブルパイロット制だ。機長の操縦ミスや体調不良に対応でき、障害物や計器類を複数でチェックする利点がある。

 航空隊には当時、3人のパイロットがいた。だが、事故で死亡したベテランが1人で操縦し、副操縦席には整備士が座る状態が続いていた。

 ある隊員は要望書で「操縦士の疲労によるヒューマンエラー(人為ミス)が起きやすく、事故につながりかねない状況にある」と、危機感をあらわにしていた。

 他の2人の隊員も同様にパイロット1人態勢の問題点を指摘したり、副操縦席に訓練中のパイロットを搭乗させるよう求めたりする文書を提出していた。

 この2人は事故で亡くなった。要望を聞き入れられず、不安を抱えながら飛んでいたと思うとやり切れない。

 要望が実現しなかった理由は何か。県の担当課長はベテラン以外の2人が「副操縦席に乗る技量があるかどうか、客観的に見極められなかった」と述べた。

 ただ、うち1人は前任の山梨県消防防災航空隊で副操縦士として690時間の飛行経験があった。技量を誰が見極め、判断を先送りしたのか。要望に対する意思決定の過程は不透明だ。

 ダブルパイロットの必要性は隊員要望の前から指摘されていた。

 2009年9月に北アルプスで起きた岐阜県防災ヘリの墜落事故。国土交通省運輸安全委員会は問題点の一つとして、「機長を補佐する副操縦士が乗っていなかった」ことを挙げている。この教訓も生かされなかった。

 一連の経過に対する県の説明は十分ではない。隊員らの要望書の情報公開請求に対しても「個人情報に当たる」と全面非公開にした。個人情報だけ伏せて公開する方法もある。不信を招く決定だ。

 県警の調べでは機体の故障や不具合などは見つかっていない。人為的なミスだった可能性がある。運航態勢の問題点を洗い出し、明らかにすることが欠かせない。

(9月8日)

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