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斜面

登山届を出す意味の一つは、万一のとき助かる可能性を広げるところにある。そのことが分かるケースがこの夏北アルプスであった。唐松岳から富山県側、黒部の谷へ下山する途中で滑落し、動けなくなった人が富山県警に救助された。滑落から1週間後のことだった

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その人、広島市の筒井清之さん74歳に電話で話を聞くことができた。泊まる予定の山小屋まであと1時間という場所だった。30センチほどの段差で足が滑り、急な斜面を十数メートルほど背中から落ちた。登り返すのは難しい。沢底に降りて救助を待つことにした

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日程の最後の方だったので食料は残り少なかった。チョコレートが十数粒。助けが来るまで5日かかると考え、毎日2粒食べたという。救助を待つ決断ができたのは自宅に詳細な計画書を置いてきたからだ。捜索隊がルートに沿って調べればどこで事故に遭いやすいか見当がつく

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計画書で大事なのは、家族や職場の同僚など帰ってこないことにすぐ気が付く人の元に残しておくことだ。登山口のポストに出しても遭難したことさえ分からない。家族などから捜索願が出てこないと、警察は登山届をいちいちチェックしたりはしない

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長野県が条例で登山届提出を義務付けてから1年が過ぎた。中には肝心のコースが書いてないなど、おざなりなものもあるようだ。計画書は命綱。せめて家族の元にはしっかりしたものを残して出発しよう。筒井さんも「必要性を痛感した」と話していた。

(9月10日)

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