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衆院選に問う 首相解散表明 筋が通らず説得力を欠く

 安倍晋三首相が28日の臨時国会冒頭の衆院解散を表明した。

 2019年10月に消費税率を10%に引き上げる際、増収分の使い道を思い切って変えたいとした上で「国民との約束を変更し、重い決断をする以上、信を問わなければならない」と述べている。幼児教育の無償化などに使う考えだ。

 唐突な提案である。具体的にどう使うのか、財政再建はどうするのか。詳しい中身が分からないのでは有権者として判断しようがない。なぜ今、衆院選なのか。記者会見を聞いても疑問が消えない。

   政治の節度どこに

 14年の解散時を思い起こさせる会見である。前回は消費税率の再引き上げの延期について判断を仰ぎたいと解散に打って出た。争点が曖昧な選挙戦は、最後まで盛り上がりを欠いた。

 説明の分かりにくさは今回も共通する。初めに解散ありき、消費税の使途変更が後付けの理由なのは明らかだ。

 衆院議員の任期満了を来年12月に控えている。時期を逃せば「追い込まれ解散」を余儀なくされかねない。野党第1党の民進党は離党者が相次ぎ、小池百合子東京都知事の側近議員らによる新党も準備が整っていない。今なら有利と判断したのだろう。

 解散を巡り内閣に一定の裁量が認められるとしても、行使には信を問うべき十分な理由がなければならない。政権の一方的な都合で踏み切るのは解散権の乱用だ。

 国民不在、党利党略の解散表明が、当たり前のように繰り返された。首相のやり方は大義も節度も欠いている。

   国会での議論こそ

 消費税の使途変更が重大な政策転換であることは確かだ。

 旧民主党と自民、公明両党による12年の合意は増収分全てを社会保障に充てるのが柱だった。約2割を社会保障の充実、約8割を国の借金減らしなど社会保障の安定化に充てる。この方針から大きく外れることになる。

 だからといって解散を正当化することはできない。大転換であればなおさら、国民が政策の中身を理解し、是非を判断できるようにすべきだ。まず国会で掘り下げるのが本来の姿ではないか。

 野党は憲法に基づき臨時国会の早期召集を求めてきた。これに応じなかった上、議論のないまま冒頭に衆院を解散する。筋の通らない話である。

 首相が新たな看板政策として掲げる「人づくり革命」は、6月の通常国会閉会後の記者会見で打ち出された。どんな取り組みを進めようというのか、柱の一つである教育無償化を含め、具体的な政策は分からない。

 消費税の使い道を変えることには、自民党内でも「思い付きでやられては困る」などと異論が出ている。議論が不十分なまま、急ごしらえの公約を示されても判断材料にはならない。

 加えて見過ごせないのは、財政再建との兼ね合いだ。20年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという政府の目標について首相は達成困難との認識を示している。

 もともと絶望視されていたのに堅持すると繰り返してきた。消費増税分を予定通り使っても、赤字が残ると試算されている。使途変更と合わせての表明は目くらましのようなやり方だ。

 財政再建の旗は降ろさないと述べたものの、具体策は今後定めるとするにとどまる。財政規律が緩み、借金はますます膨らみかねない。子育て支援、教育無償化と聞こえのいい言葉を連ねながら、将来世代への付け回しを続けるのは矛盾している。

   疑惑をごまかすな

 今回の解散には森友学園、加計学園を巡る疑惑の追及を避けたい思惑もあるだろう。

 国有地が破格の安値で払い下げられ、国家戦略特区制度を利用して半世紀ぶりの獣医学部新設計画が進められた。行政の在り方がゆがめられなかったか、首相側の意向が決定に影響しなかったか。疑惑は残ったままだ。

 6月の会見では、通常国会での自身の答弁姿勢について「深く反省する」と述べ、「指摘があればその都度、真摯(しんし)に説明責任を果たしていく」と表明していた。きのうも「丁寧に説明する努力を重ねてきた。今後もその考えに変わりはない」としている。

 森友の国有地問題で会計検査院の調査報告、加計の獣医学部については文部科学省の審議会の新設認可判断が控えている。この時期に解散しながら「丁寧な説明」を口にしても説得力はない。

 国会では記録がない、記憶がないと繰り返す政府側の答弁で堂々巡りが続いた。閣僚や自民党議員の相次ぐ問題発言と合わせ、「1強」政治のゆがみ、おごりを感じさせる問題である。解散ではぐらかされるわけにはいかない。

(9月26日)

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