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二十世紀は偶然から生まれた。ナシの話である。明治の中ごろ、千葉県松戸市のごみ捨て場で発芽している種を一人の少年が見つけた。父がナシ園を経営する少年は「ちょっと変わっている」と思い、持ち帰って育てたのが始まりという

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種は突然変異だったらしい。成熟した実がなるまで10年かかった。透き通るようで滑らかな皮、たっぷりとした果汁…。品評会で絶賛され、「世界の名果」ともいわれるほどに。長野県内では養蚕から転換した伊那谷が鳥取に次ぐ生産地に成長する

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戦後の大増産は鉄道も変えた。短期集中の出荷に対応してナシ専用列車を運行するため、駅のホームの大幅拡張や線路のカーブ削減など飯田線の改良につながった。郷土の歴史を「飯田線と伊那谷の梨」(桃沢匡行編)で知った。リュックを背負い列車で買い出しに行った記憶がある

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20世紀の終わりとともに王者にも陰りが見えた。2000年の県内出荷量は初めて「幸水」に首位の座を明け渡した。以後減少傾向は止まらず、いまや「南水」「豊水」を加えた甘みの強い赤ナシ勢が上位を占め、青ナシの二十世紀は4位に落ちた

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黒斑病に弱く、1、2回の袋かけが必要だ。手伝ったことがあるが、上げっぱなしの腕がすぐに痛くなる。消毒回数も多い。高齢化した農家には重労働で栽培中止が続く。ただ、二十世紀のさわやかな甘みの支持者は多い。農家の苦労を思い、21世紀もずっと続くことを願って今季も味わう。

(9月27日)

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