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家族は避難したが幼い時に亡くなった娘の墓がある。離れるわけにはいかない―。福島第1原発の作業員の男性はそう言って涙を流したという。建設の仕事を大震災で失った。やむなく加害者である東電のもとで働くしか道がなかった

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フォトジャーナリストの小原一真(おばらかずま)さんは多くの作業員が抱えている複雑な怒りや悲しみに触れた。親しくなった作業員に「原発の中を見てほしい」と声をかけられ作業服を借りて潜入。劣悪な環境下、被ばくの危険にさらされながら働く実態を撮影した

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1985年、岩手に生まれた小原さんは金融機関の京都支店で働いていた。2011年3月の大震災から3日後に退職。カメラを持って被災地に入った。8月に撮影した原発内部の写真は欧州で反響が広がり、スイスの出版社から写真集「リセット 福島の彼方に」を出している

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福島の廃炉の道は遠い。政府が改定した工程表によれば使用済み核燃料の取り出し開始が3年ほど遅れる。溶融核燃料(デブリ)を取り出す難作業も待ち構える。完了まで30〜40年とされるが「数十年の単位で課題の先送りが続く」とみる専門家もいる

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小原さんはチェルノブイリに取材を広げた。事故後31年を経ても燃料取り出しのめどが立たない。列車通勤する廃炉作業員を取材。その営みと四季の移ろいを写真集「永遠に」にまとめた。原発に人生を壊されながら原発に頼らざるを得ない。福島が重なったという理不尽で長い道である。

(9月28日)

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