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クルド人問題 中東を揺さぶる火種

 中東情勢を揺さぶる紛争の火種がまた増えた。イラク北部のクルド自治政府が強行した独立の是非を問う住民投票である。

 自治政府トップのバルザニ議長は独立賛成派が勝利したと宣言し、イラクの中央政府に独立交渉を迫っている。

 イラク憲法には分離独立の規定がないため、投票結果に法的拘束力はない。が、「国家樹立」の意思を広く示したことに中央政府は強く反発し、隣国のトルコと合同で軍事演習を始めた。イランもミサイルを追加配備し、軍事的緊張が急速に高まっている。

 武力紛争など深刻な事態に発展させぬよう、国際社会は対策を講じなくてはならない。

 クルド人は、イラク、トルコ、イラン、シリアにまたがる山岳地帯に暮らしている。総人口は2千万〜3千万人。「国家を持たない最大の民族」と呼ばれる。各国で多数派に抑圧されたり弾圧されたりし、自治や独立を求める運動が繰り返されてきた。

 背景は根深い。クルド人居住地域の大半は、かつてオスマン帝国の領内だった。英国やフランスなど第1次大戦の戦勝国が多様な民族や宗教の分布を無視して中東を分割したことで、クルド人は分断されることになった。

 イラクのクルド自治政府は、湾岸戦争後の1992年に米英の保護下で成立した。その後制定された新憲法で正式に自治権も得て落ち着くかに見えた。

 事態を複雑にしたのは、過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭である。自治政府は米軍に協力してIS掃討に貢献する一方、混乱に乗じて油田都市キルクークなど自治区外にも実効支配地域を拡大。バルザニ議長はこれを好機と考えたのだろう。6月にはイラクからの独立の是非を問う住民投票を行うと発表した。

 2005年に議長に選出されたバルザニ氏は2年前に任期満了を迎えた。ISとの戦闘を理由に議長を続けている経緯がある。11月に予定される議長選には規定上出馬することができない。

 自治政府の財政は厳しく、汚職も深刻とされる。バルザニ氏の強引な行動は問題を覆い隠し、住民投票の結果を盾に権力の座にとどまる狙いがあるのではないか、との見方が出ている。

 イラクの中央政府は独立交渉を拒否し、自治区内の空港の運営権を引き渡すよう求めた。自治政府を支援してきたトルコも制裁措置の検討に入っている。波紋がどう広がるか、予断を許さない。

(9月28日)

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