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衆院選に問う アベノミクス 行き詰まり認め論議を

 9月下旬、24歳の自動車整備士という男性がツイッターに載せた画像が波紋を広げた。

 本人のもの、という給与明細書である。出勤日数は19日で、税金や社会保険を引かれた手取り額は12万円弱。転職するのか「整備士最後の給与明細」と記した男性は、額の少なさに「会社で男泣きをした」と嘆いた。

 投稿は瞬く間に2万件以上転載された。さらに「自分の方が少ない」と自らの給与明細書を投稿する人が続出した。

   <実感なき好景気>

 同じころ、政府は9月の月例経済報告で、景気拡大が58カ月に達し、戦後2番目に長い「いざなぎ景気」を超えた可能性が高いとの認識を示した。

 好景気を示す指標は多い。日経平均株価は2万円を超える。4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算で2・5%増と、11年ぶりに6四半期連続のプラス成長となった。安倍晋三首相は9月25日の衆院解散表明の記者会見で「内需主導の力強い経済成長を実現した」と胸を張った。

 指標が示す「好景気」で新卒者が就職しやすくなった一方で、生活もままならない給与水準で働く若者たちがいる。

 アベノミクスがもたらしたものは、格差の拡大と中間層の減少である。

 厚生労働省の国民生活基礎調査によると、年収300万円未満の世帯は15年に3分の1を占め、アベノミクスが始まる前の12年よりわずかだが増えた。金融緩和がもたらした株高は富裕層の資産を増やし、格差を広げた。

 国民の生活は「力強い経済成長」を実感するには程遠い。

   <消費は力強さ欠く>

 アベノミクスは大規模金融緩和と機動的な財政運営、規制緩和による成長戦略が柱だ。

 日銀による国債の大量購入は円安傾向を生み出し、輸出企業を中心に業績は改善した。東証1部上場企業の18年3月期の純利益合計は前期に続き、過去最高を更新する見通しになっている。

 アベノミクスの狙いは、大企業の潤いを中小企業や個人消費に波及させ、物価上昇につなげる経済の好循環を生み出すことだ。

 現状は大企業の好業績が中小や個人に及んでいない。大手の賃上げも十分とは言えず、中小や地方はさらに厳しい。

 非正規労働者と正社員の格差も広がる。国税庁のまとめだと、16年の正社員の平均給与は486万円なのに対し、非正規は172万円だ。格差は314万円となり、12年以降で最高となった。置かれた立場は弱く、社会保障費の負担増という将来不安も重なる。

 個人消費は力強さを欠いたままだ。消費者物価指数(生鮮食料品を除く)も前年同月比で0・7%程度の上昇にとどまる。日銀は7月、物価上昇率2%目標の達成時期を「18年度ごろ」から1年先送りした。延期は6回目になる。

 本来は金融緩和で景気を刺激している間に、社会保障や税など痛みの伴う改革を急ぎ、経済の地力を付けて将来不安を取り除く必要があったはずだ。

 それなのに安倍政権は地方創生、女性活躍、1億総活躍と成果を検証しないまま看板を掛け替え、新たに「人づくり革命」を掲げた。目玉政策が乱立し、担当相の役割分担もはっきりしない。

 消費税10%への引き上げも2回先送りして、国と地方を合わせた国の借金残高は膨れ上がった。5年前から160兆円以上増え、すでに1千兆円を超えた。

 日銀は出口の見えない金融緩和を続け、保有する国債が発行残高に占める割合は4割を超える。

   <明確な将来像示せ>

 現在の大規模金融緩和は、国の財政を日銀が支える財政ファイナンスに近い。低金利で借金ができる環境に政府は甘え、財政規律という言葉がむなしく響く。

 先行きが見通せない状況は、将来の年金などに対する国民の不安を生み出して、収入は貯蓄に回り消費が増えない。そのため、政府はますます目先の景気対策を重視する。政府と日銀の狙いに反した「悪循環」に陥っている。

 与党にもブレーキ役を果たそうという動きは見当たらない。

 衆院選の選挙公約で自民党が掲げたのは「アベノミクスの加速」である。日銀の審議委員も現状の金融緩和策に一貫して反対票を投じてきた2人が退任し、現行政策におおむね賛成の立場とされる委員が就任した。

 希望の党は消費税増税の凍結を訴え、立憲民主党も日本経済の現状では増税できないとする。目先の対策だけでなく、長期的な視野で論議することが必要だ。

 アベノミクスが始まって5年近く。目標を達成できないのなら、金融緩和と財政出動に頼る政策の根本を見直すべきだ。安心できる明確な将来像がなければ、行き詰まりは打開できない。

(10月5日)

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